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27年バックナンバー

職場の受動喫煙防止対策が開始されています。

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  小田原 努
(ヘルスサポートセンター鹿児島 所長)

  労働安全衛生法が改正され、今年の6月1日より「職場の受動喫煙防止対策」が努力義務となっています。産業医としても巡視の際は、必ず職場の分煙対策をチェックする必要がありそうです。  
  以前ある事業所を巡視したところ、地下1階の売店の前が喫煙場所になっているところがありました。商品を販売している女性の方は、煙から逃げ回りながら仕事されていましたが、この方が肺癌になったら労災と言われても仕方がないと強く指導したところ、屋外に喫煙所を移してもらうことができました。調査によるとまだまだ4割の事業所は受動喫煙対策がなされていないとのことです。我が国の受動喫煙による死亡は1年間に6,800人とも言われており、特に今後、女性や高齢者の就業人口が増加すると考えられますので、妊娠している女性やCOPDなどの呼吸器疾患を持つ高齢者に対しての配慮は更に必要と考えられます。  
  受動喫煙防止対策としては、「敷地内全面禁煙」、「屋外喫煙所の設置」、「空間分煙(喫煙室の設置)」、「接客業などの換気装置による喫煙区域の設置」の4つがあげられます。
  「敷地内全面禁煙」の場合は、敷地外の道路の側溝に吸い殻が落ちていないかチェックする必要があります。また禁煙の相談も増えますので、禁煙外来を調べておいて紹介することも必要です。「敷地内全面禁煙」が一番安価で、禁煙に挑む人を増やす産業医としては、おすすめの方法です。「屋外喫煙所の設置」も割と多い対策ですが、吸い殻の後始末の管理はチェックが必要です。また風向きによっては屋内に煙が入り込まないか設置場所の確認も必要です。一番多いのが「空間分煙(喫煙室の設置)」ですが、問題のある喫煙室が多いのが現状です。まず、きちんと換気できているか確認が必要です。換気扇の性能は十分か、入口のドアには空気の取り入れ口(ガラリ)が設けられているか、一度にタバコを吸える人数を制限しているかなどがチェック項目です。必ず、「喫煙室内に向かう気流」、「浮遊粉じん濃度」、「一酸化炭素濃度」の測定は指導してください。気流は、全ての測定点で0.2m/秒、浮遊粉じん濃度は測定点全体の算術平均が0.15mg/m3以下、一酸化炭素濃度は測定点全体の算術平均が10ppm以下が必要です。測定機器は、借りることができますので、厚生労働省の委託を受けて技術的支援を行う㈱アマラン、労働安全衛生コンサルタント会、産業保健総合支援センターなどにご相談ください。また屋外喫煙所や喫煙室等の設備の設置には条件はありますが、労働局より助成金も受けられます。ぜひ活用して、職場の受動喫煙防止対策のご指導をお願いいたします。

平成27年12月 第774号 掲載
「産業保健の話題(第172回)」

 

「広範囲胸膜プラーク」について

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  米倉 隆治
(国立病院機構鹿児島医療センター)

「石綿による肺がん」とは以前は石綿肺に合併した肺がんであり、肺の線維化が発がんメカニズムに重要と考えられていました。しかし石綿肺を合併しない「石綿による肺がん」の存在も明らかになり、石綿自体が肺がんの発生に重要であると現在では考えられています。
 平成24年から25年にかけて「石綿による肺がん」の労災認定基準、健康被害の救済に関する法律が改正され、判定基準が変更になりました。
 まず労災の認定基準では、石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって、

  1. 石綿肺所見を認める。
  2. 胸膜プラーク所見を認め、かつ石綿作業従事期間が10年以上ある。
  3. 広範囲の胸膜プラークを認め、かつ石綿作業従事期間が1年以上ある。
  4. びまん性胸膜肥厚(肥厚の広がりが、片側のみの場合:側胸壁の1/2以上、両側にある場合:側胸壁の1/4以上存在する)を認め、著しい呼吸機能障害があり、石綿作業従事期間が3年以上あること 
  5.  肺内に石綿小体・石綿繊維の量が一定量以上存在し、石綿作業従事期間が1年以上ある。 
  6.  a.石綿紡織製品製造作業、b.石綿セメント製品製造作業、c.石綿の吹付け作業、これら3つの作業いずれかの従事期間又はそれらを合計した従事期間が5年以上あること、

以上1~6のいずれかを満たすと「石綿による肺がん」とされます。
 次に救済法ではやはり原発性肺がんであって、

  1. 胸膜プラークがあり、じん肺法に定める第1型以上と同様の肺線維化所見がある、
  2. 広範囲の胸膜プラーク所見を認める。
  3. 肺内に石綿小体、石綿線維を一定以上認める。

以上1~3のいずれかを満たすと「石綿による肺がん」と認定されます。
 どちらにおいても画像所見で新しく追加されたのが広範囲の胸膜プラークです。これは1)胸部正面X線写真で胸膜プラークと判断できる明らかな陰影を認めるもの(胸部CT画像上もプラークとして確認される)、または2)胸部CT画像で胸膜プラークを認め、左右いずれか一側の広がりが胸壁内側の4分の1以上存在するものとされました。
 2)のCTで判定する分には特に問題はないと思いますが、1)の胸部X線写真で胸膜プラークと判断できる明らかな陰影とは、横隔膜に太い線状又は斑状の石灰化陰影を認める、或いは側胸壁の第6から第10肋骨内側に非対称性の限局性胸膜肥厚陰影を認める、そしてそれらに加えて肋骨横横隔膜角の消失を伴わないものと定義されました。
 ごくわずかな範囲にしかプラークが存在しなくても、肥厚が顕著であったり、石灰化が密に存在したりして胸部X線上指摘できさえすれば、広範囲胸膜プラークとされます。この点に関してはいろいろ問題があるところかもしれません。
  (以上は鹿児島産業保健総合支援センターのメールレターに加筆したものです)

平成27年11月 第773号 掲載
「産業保健の話題(第171回)」

 

ストレスチェック制度と産業医

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  長友 医継
(医療法人玉水会病院)

 本年12月1日より、労働安全衛生法の改正(平成26年6月25日公布)に基づくストレスチェック制度(以下、本制度)が始まります。本制度に関しては、赤崎安昭教授が、「産業保健の話題(第166回)」(本会報第768号〈平成27年6月〉)で取り上げられ、精神疾患に対するスティグマの観点からの問題点などを指摘されています。
 事業場の状況を理解している産業医が本制度の中心的役割を担うことが適当とされていますが、いよいよその施行が目前に迫りましたので、本制度における産業医の役割について、かいつまんで述べてみます。産業医(もしくは医師)が係る業務としては、ストレスチェック検査の実施と高ストレス者への面接指導があげられます。

 実施者としての業務は、専門的な見地から、調査票(項目)の選定、調査票に基づくストレスの程度の評価方法及び高ストレス者の選定基準の決定について事業者に意見を述べることです。さらに、ストレスチェックの結果、「働く人」が医師による面接指導を受ける必要があるが否かを確認します。
 一方、面接指導では「働く人」の勤務状況、ストレス要因、心理的な負担の状況、周囲のサポート状況および心身の状況を確認します。これらの確認後、「働く人」に対して具体的な指導・助言を行います。さらに、面接結果を事業者に通知し、就業面の配慮などが必要な場合は意見を述べることになります。  
 本制度の施行により、産業医の責任や負担が増えることが予想されますが、これに対する日本医師会の今村聡副会長の見解は以下のようです(第134回臨時代議員会、平成27年3月29日)。
  「(今村副会長は)労働者が安心して回答に臨むことができるように、守秘義務が課せられ、同意がない限り、事業者側へ情報が伝わらない制度になっている点を指摘した上で、『ストレス情報が事業者に提供されず、対策ができなくても、産業医は責任を問われない』との認識を示した。さらに実施については、『産業医に責任があるのではなく、事業者にある。産業医は依頼を受けて実施する形となる』と述べた」(m3.com)。

 労働安全衛生法は「働く人」の安全および健康に関する法律ですが、平成17年における改正では過重労働・メンタルヘルス対策が打ち出されました。これは、メンタルヘルス不調者の早期発見・早期治療を目指した二次予防が中心となるものでした。
 これに対し、今回の法改正で制定された本制度は、メンタルヘルス不調の「働く人」を把握するものではなく、メンタルヘルスの不調の未然防止を目的とする一次予防を重点としたものです。産業医活動は、「働く人」の健康保持・増進に努め、労働と健康の両立を図ることですが、そのニーズは時代によって変化します。今後、産業医には本制度を適切に活用することで、職場環境のさらなる改善を図ることが期待されます。

平成27年10月 第772号 掲載
「産業保健の話題(第170回)」

 

アルコール健康障害対策基本法のスタート

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  竹元 隆洋

  平成18年福岡県で家族5人が橋から突き落されて死亡した飲酒運転事故がありました。この事件は国民の安全・安心・健康を志向する意識の変化に大きく影響を与えましたが、対策は刑罰の厳罰化に止まり、国民が望むような包括的な対策には至りませんでした。その矢先、平成22年5月、WHO総会において「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」が決議されました。直ちに7月には私も理事をしている日本アルコール関連問題学会は「アルコール健康障害対策基本法」の制定推進のため、全日本断酒連盟や全国市民協会と提携して活発に国会議員に働きかけました。そして、平成25年12月7日基本法が成立し、平成26年6月1日施行されました。その後2年以内に対策関係者会議の意見を聴いて案を作成し閣議決定することになっており、現在、多くの資料に基づいて多くの人々の意見を取りまとめる段階になっています。  
  この基本法の基本認識は「酒類が国民の生活に豊かさと潤いを与えるものであるとともに、酒類に関する伝統と文化が国民の生活に深く浸透している一方で、不適切な飲酒はアルコール健康障害の原因となり、アルコール健康障害は、本人の健康の問題であるのみならず、その家族への深刻な影響や重大な社会問題を生じさせる危険性が高い」としています。「アルコール健康障害」とは「アルコール依存症やその他の多量の飲酒、さらに未成年者の飲酒や妊婦の飲酒等の不適切な飲酒の影響による心身の健康障害」と定義しています。この基本法の基本概念として(1)アルコール健康障害の発生、進行及び再発の各段階に応じた防止対策を適切に実施するとともに、日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるように支援する。(2)飲酒運転、暴力、虐待、自殺等の問題に関する施策との有機的な連携が図られるよう、必要な配慮をすることとなっています。  

  基本的施策について簡略に述べると(1)教育及び広報活動(2)不適切な飲酒の誘引の防止(3)健康診断及び保健指導(4)節酒等の指導、専門的な治療及びリハビリテーションの充実、専門医療機関とその他の医療機関の連携(5)飲酒運転、暴力、虐待、自殺未遂等をした者への指導、支援(6)家族に対する相談、支援(7)アルコール依存症者の社会復帰や就労支援(8)自助活動や民間団体が行う活動の支援(9)医療、保健、福祉、教育、矯正の従事者について、人材の確保、養成、資質の向上(10)アルコール健康障害に関する調査、研究の推進などがあげられています。  

  この基本法の施行に国としては、内閣府、法務省、文部科学省、厚生労働省、国土交通省、警察庁、国税庁などが連携しています。そして国民に広く知ってもらうために毎年11月10日から11月16日までを「アルコール関連問題啓発週間」として規定しており、鹿児島県でも平成27年11月14日(土)13時から鹿児島商工会議所ビルで鹿児島県断酒新生会の主催で講演会などを開催予定です。

平成27年9月 第771号 掲載
「産業保健の話題(第169回)」

「心の病」で労災認定過去最多、業種別では医療行第3位

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  德永 龍子
(鹿児島純心女子大学名誉教授)

  過労やいじめでうつ病などの精神疾患を発症したとして、平成26年度労災申請した件数は1456人(前年比47人増)、内労災認定者は497人(同61人増)に上り過去最多となった。内自殺者(未遂者を含む)も過去最多の99人(同36人増)だった。鹿児島県は、5人の労災認定者の内2人が自殺者だった(6月25日厚生労働省集計)。この発症原因は「悲惨な事故や災害の体験・目撃」72人、「嫌がらせ、いじめ、暴行を受けた」69人、「月80時間以上の時間外労働を行った」55人、「セクハラを受けた」27人、「上司とのトラブルがあった」21人が目立った。業種別では、第3位「医療業」27人内女性22人と女性が多い。
  病院・医院は広い意味の企業であり、院長は使用者として全職員の労働に対する「安全配慮義務」が労働契約法で課せられている。日本人のうつ病の生涯有病率は約3~7%、約15人に1人が一生の内にうつ病を体験するとされる。それなら、院長は職員の心身に配慮した健康的な労働環境を整備して経営に当たる必要がある。万一、職員が心の病になった場合、フォローアップ体制は万全ですか。小規模組織では代替要員の確保、中枢職員の心の病の場合は組織運営自体が成り立たなくなった話やパワハラ、いじめなどの相談を受ける。その後、同僚、役職者や身内に負荷がかかり第2の心の病や病人の誘発を招いた例もある。相談員として小規模組織ほどメンタルヘルス対策が重要課題だと痛感する昨今である。働き手の心の病は、労働者の健康上、医療費の増大、社会損失、労災補償費等の経済コスト面から深刻な社会問題であり、その原因究明と対策がきわめて重要と考える。

  医療現場での過重労働は、①長時間労働 ②深夜勤務など不規則な業務③クレーム処理などのストレスが高い業務 ④医療現場での精神的緊張度の激しい業務などである。原因究明してすぐに対応しないと根本解決に至らない。①②労働時間の適正対策のヒントは、勤怠管理の明確化、過重労働面接記録の分析から業務改善して業務量を適正に調整する。持ち帰り仕事が多い、交替制勤務+残業60時間以上は過労死危険レベルである。これが常態なら労災防止や労災訴訟の観点から必要な職員配置や補充が急務となる。一方、平成20年2人の看護師の過労死を受けて取り組む、看護協会の「ナースのかえる」プロジェクトを現場で実効し改善成果を上げた病院もあった。
  ③のクレーム処理対策のヒントは、現場にあった。現状調査した結果から、クレーム処理はストレス分散のため複数対応とし責任者の支援もある所。オンコールや呼び出しの責務が一人に集中しないよう複数に分散し、その用件をできるだけ現場処理できるようにした所。クレーム対応・急に欠勤者が出た場合・主要機械やシステムが故障した場合のマニュアルなど体制整備されている所もあると聞いた。
  「人材は人財」同僚の心の信号に素早く気づき早期対応することが対策となる。心の病の症状、不眠症、ひどい全身倦怠感、憂鬱不安、イライラ、頭痛、肩こり、めまい、胃腸症状、持病の悪化など平素の会話や定期健診で気づき早期対応する。 専門職の医療現場が成功すれば、「心の病健康経営モデル」となるかもしれない。

  参考文献:厚生労働省ホームページ。奥田弘美,日本医事新報No.4705.2014.6.28。

平成27年8月 第770号 掲載
「産業保健の話題(第168回)」

地域包括ケアシステムの構築だけでなく

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  西園 直幸
(鹿児島県歯科医師会 常務理事)

  今年5月末の全国紙(読売新聞)に次のような広告が出ました。
「口の中はばい菌でいっぱい。元気なからだは日頃の口腔ケアから。日本人は口の中の健康意識が低いといわれています。歯周病は糖尿病や心筋梗塞の原因になることも。健康寿命を延ばすためにも、日頃から口腔ケアを心がけて、口の中を清潔に保つようにしましょう。」  
  これは日本歯科医師会ではなく、日本医師会が出した広告です。新聞を見落とした方は、日本医師会ホームページ(http://www.med.or.jp/)に掲載されていますので、ご覧になってください。トップページ右上にあるこの画像をクリックすると、日本糖尿病対策推進会議が作った歯周病と糖尿病のポスターが表示されます。(現在は表示されていません)。
「食事に気をつけても、運動に励んでも、血糖値が下がらない。」
「それ、悪いのはあなたではなく、歯ぐきかもしれません。」  
  歯科界では、誤嚥性肺炎と口腔ケアの関係を明らかにした米山武義先生の論文以降、歯科医療・口腔保健が健康寿命の延伸に大きく関与していることを示す事例が次々に明らかになってきています。生涯にわたる歯と口腔の健康を維持することは、個人のQOLの向上と生活習慣病の予防および重症化防止のための必要条件であり、健康寿命の延伸に間違いなく寄与するものです。
  我が国はとてつもないスピードで高齢化が進んでいます。医療の進歩や生活環境の改善は平均寿命を大きく伸ばしましたが、そこに健康寿命との乖離、すなわち要介護高齢者の増加という問題を引き起こしています。要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築は我々医療界の喫緊の課題となっています。多職種が顔の見える良好な関係を築き、在宅医療・在宅歯科医療を推進していかなければなりません。しかし、残念ながら、在宅歯科診療を実施する歯科医療機関は、歯科医療を必要とする要介護高齢者数に対しては未だ十分とはいえませんので、超高齢社会の在宅歯科医療の需要に応えられる量と質を担保するための供給体制の整備が急がれている状況です。  
  こうした取り組みと同時に忘れてはならないことが歯科医療の特殊性です。歯科疾患に自然治癒はありませんから、重症化した歯と口腔の健康を取り戻すには長い治療期間が必要となります。だからこそ、各ライフステージでの歯科疾患の予防と適切な治療、メインテナンスが重要であることを訴え続けることも歯科界にとっては重要な課題といえます。  
  鹿児島県の40歳が未処置歯を有する者の割合は46.7%です。40歳代の進行した歯周炎を有する者の割合も47.1%です(ともに平成23年)。高校卒業後、法律が定める歯科健診の機会は40歳までありません。半数近くの県民が歯と口腔の健康を損なっているという現実と、歯科健診空白期間22年間は無関係ではありません。昨年12月に公布施行された「かごしま歯と口腔の健康づくり県民条例」が、歯科界が抱える多くの課題を解決する後ろ盾として機能することを熱望します。

県医師会報7月号①

 

 


 

県医師会報7月号②

 

 


平成27年7月 第769号 掲載
「産業保健の話題(第167回)」

ストレスチェック制度―労働安全衛生法の一部改正に伴う―

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  赤崎 安昭
(鹿児島大学医学部保健学科 教授)

  厚生労働大臣は、平成27年2月16日に労働政策審議会に対して、「労働安全衛生法の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令案要綱」についての諮問を行いました。この諮問を受け、同審議会安全衛生分科会において審議が行われ、3月24日、同審議会から妥当であるとの答申がありました。厚生労働省は、この答申を踏まえて速やかに省令の改正作業を進めることになりました<平成27年4月公布、平成27年6月(ストレスチェック制度関係は、平成27年12月)施行予定>。  
  ストレスチェック制度の概要は、「常時使用する労働者に対して、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施を事業者に義務付けるもの(労働者50人未満の事業場については当分の間努力義務)。検査の結果、一定の要件に該当する労働者から申出があった場合、医師による面接指導を実施することを事業者の義務とするもの」となっています。改正後の産業医の職務としては、ストレスチェックの実施、ストレスチェックの結果に基づく面接指導及び面接指導の結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関することが追加されました。事業者は1年以内ごとに1回、定期的に①職場におけるストレスの原因に関する項目、②ストレスによる心身の自覚症状に関する項目、③職場における他の労働者による支援に関する項目、について検査を行うことが義務付けられています。注目すべき点は、検査結果の取り扱いです。法令案には、解雇等の直接的な人事権をもつ監督者は、検査の実施の事務に従事してはならないことになっていますが、検査結果を事業者に提供することができるようになります。ただし、提供する際は労働者の同意を書面または電磁的記録でとらなければなりません。つまり、本人の同意が必要ですが、メンタル面の情報を開示することになるのです。ちなみに、最近、海外であった航空機事故に関連して、航空機パイロットの定期検診についての報道がありましたが、日本ではメンタル面も全て管理者に開示されるシステムになっているようです。  

  ところで、私は、数年前から全国に先駆けて鹿児島県民総合センターが検診の際のオプションとして行っているストレスチェックの実務に関わっています。その概要については、すでに産業保健関係の学会でも発表しましたが、ストレスチェックで専門医の診察を受ける必要があると判断された労働者が実際に受診するのは開始当初から大きな変化はなく、メンタル検診をスタートさせて数年経った今でも受診率は数%と低迷した状況にあります。この受診率は癌検診と比較するととんでもなく低い数値なのです。受診率が低いまま停滞している理由は不明ですが、「メンタルヘルス」につきまとう「精神病」、「精神障害」、「精神を病んでしまった」といったスティグマが関与している可能性も否定できません。  
  ストレスチェックの実務に関わっている者として、厚生労働省がストレスチェックという形でメンタルヘルス対策に踏み込んだことは評価できますが、「メンタルヘルス」につきまとうスティグマが受診率の低さに影響を与えているとしたならば、この施策は形骸化してしまうことが懸念されます。つまり、労働者が、職場側からネガティブなレッテルを貼られないように「問題なし」という結果になるように記入する可能性も否めないということです。しかし、ストレスチェックを義務付けるという施策は画期的なものであり、労働者自身がメンタルチェックの重要性を自覚しチェックリストに“ありのまま”を記入すれば、職場にとっては有益な情報になると思われます。また、これまで「メンタルヘルス問題」に苦慮していた産業医の先生方にとっても、ストレスチェックリストの結果は、職場環境の改善、労働者のストレスの軽減、メンタルヘルス問題への早期介入の重要なツールになると考えます。


平成27年6月 第768号 掲載
「産業保健の話題(第166回)」

原因のはっきりしない痛み(慢性疼痛)

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  大迫 政智
(メンタルヘルス鹿児島中央クリニック 院長)

  内科的あるいは外科的に適切な診断や治療を施行し、必要な説明を丁寧に重ねているにもかかわらず慢性的に疼痛を訴え続け、身体医を悩ませたりあるいは気がつくといつのまにか来院しなくなる人々がいます。  
  このように、明らかな器質的原因が認められないのに訴え続けられる疼痛に対して「心因性」疼痛ということがあります。器質的原因が確かに認められる痛みであっても、その原因に対するあらゆる治療を施行しているにもかかわらず、想定した効果がなかなか得られないときにも「心因性」疼痛と呼ばれます。つまり、その疼痛の持続の仕方が、主として身体医学的な方法だけでは理解されがたいときに「心因性」という診断が与えられてきたのです。  
  しかし、現代医学によって身体的要因が発見されない痛み、あるいは適切な治療に対する反応が認められない痛み、それらの原因をすべてひとまとめに「心因性」に帰してよいのか、という議論も当然存在します。つまり、「心因性」と称する際には、「心因性の定義」もまた問われるというのです。そのため最近では「器質的原因」や「心因」の厳密な有無を問わずに、<臨床的には疼痛のために長期にわたり苦しんでおり、社会的にもそのために重篤な障害を生じている>場合、「慢性疼痛」と総称されることが多いようです。

  慢性疼痛にはウツ状態や不安状態が伴うことがしばしばあります。それらは疼痛が長期間続いた結果なのか、あるいは疼痛の長期化の原因がそれらなのか、判別は往々にして困難です。慢性疼痛の主な合併疾患としては次のようなものがあげられます。  
  ①ウツ病(慢性の痛みはウツ病の一症状なのか、慢性の痛みの結果としてウツが生じたのか)、②統合失調症(体感幻覚や心気妄想に起因する慢性の痛み)、③神経症(現実的に対処不能な不安が形を変えて痛みとして知覚される)、④心身症(器質的原因を伴う痛みがストレスの軽重に従って増悪する)、⑤鎮痛剤薬物依存(痛みを訴え続けるのは鎮痛剤の取得が目的である)、⑥疾病利得、など。  
  慢性疼痛の治療について考えると、以下のような点について悩むことになります。身体的診断と治療の徹底(痛みの原因を徹底的に検索し、考えられる治療を徹底的に施行)をまず優先すべきだとすると、いざ「心因性」疼痛として精神科に紹介されたときには「医原性」疼痛も加わって慢性化・複雑化してしまう症例も加わる可能性があります。だからといって、身体的原因を軽視していきなり慢性疼痛として治療を開始するのは誤診の危険性が加わる結果になりかねません。従って、治療を身体的原因の精査から開始するのは当然として、「慢性疼痛」と診断する時期の適切な折り合いが求められるところです。  

  最後に現在の治療は、抗ウツ薬や慢性疼痛治療薬による薬物療法、薬物療法以外の治療法としては認知行動療法が行われます。


平成27年5月 第767号 掲載
「産業保健の話題(第165回)」

「産業衛生学会地方会(鹿児島)開催」のお知らせとともに、喫煙問題を考える

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  堀内 正久
(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科衛生学・健康増進医学分野 教授)

  この7月11日(土)、12日(日)に日本産業衛生学会九州地方会を鹿児島県医師会館で開催を致します。産業医研修の単位(申請予定)にもなりますので、奮ってご参加をいただければとご案内を致します。懇親会を鹿児島県庁最上階のレストランで行う予定にしています。県庁のレストランで懇親会を行うということを産業衛生学会九州支部理事会で報告した時に、一つ予期せぬことが起こりました。ある理事の方から発言があり、「鹿児島県庁は、喫煙所が施設内にあるので、地方会の懇親会を行う上であまり相応しくない」との内容でした。産業衛生学会では、働く方の健康管理として禁煙を主張しているわけですので、妥当な発言と思いました。しかし、県を代表する公共施設が、いまどき施設内禁煙を実施していないということを私自身知りませんでした。この紙面を借りて、私の思う喫煙問題について、記述ができればと思います。  

  私は、マウスを用いた実験・研究を主に進めており、タバコ抽出物のニトロソ化合物を用いた肺がん誘発モデル実験の経験があります。この実験で、私が驚いたこととして、化学物質暴露は、生後4~6週令以内に行わないと、肺がん発生が極端に減少するということでした。マウスの生殖能力は6~8週令からですので、4~6週令は、10歳代に相当するのでしょうか。ご存じのように、肺の成熟は、18歳ころまでに起こり、それ以降老化が始まることが、肺活量や1秒量のデータから示されています。細胞の成長期は、DNAを保護するたんぱく質(ヒストンなど)が、不十分で、様々な侵襲によって、DNA損傷が生じやすいことが予想されます。喫煙は、もちろん、20歳になってからと決められているわけですが、残念ながら、厚生労働省の調査では、高校生の喫煙率は案外高く20~30%との報告もあるぐらいです。肺成熟前の20歳までは、タバコの暴露を避けることは、最も優先すべきことだろうと思います。本人はもとより、20歳未満の子供のおられる場所、家庭や施設では、吸わないということも大事な点かと思います。喫煙問題は、なかなか難しい問題であり、近年は、やや喫煙率が上昇していることも事実です。産業保健は、働く方の健康維持増進を目的とする分野です。職場における喫煙行動は、やはり考えていく必要があるように思います。

  他県からの先生の指摘で、鹿児島県庁に喫煙場所があることを知りました。47都道府県の県庁・都庁施設で、鹿児島県を含む3県・1都が、喫煙場所を施設内に残すことを決めています。20歳未満の方が訪れる可能性のある場所や働く場所での喫煙は、主張として、禁煙の姿勢が欲しいものです。 いずれにしても、来る7月に、産業保健に関する議論の場が、鹿児島市で開催されます。皆様方のご参加を期待するとともに、喫煙問題も含めて、産業保健に関する話題を様々な角度で、様々な立場から皆様で議論していくことが、より良い社会づくりとしての活動であり、働く方の健康維持増進への道かと思います。


平成27年4月 第766号 掲載
「産業保健の話題(第164回)」

厚生印刷工場における胆管がん多発と化学物質管理の見直し

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  青山 公治
(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科衛生学・健康増進医学分野 講師)

 <校正印刷工場における胆管がん発症>

  厚生労働省は、2012年5月、大阪府内の印刷工場において従業員や元従業員が胆管がんを発症したとして3月に労災請求があった旨を公表し、報道されることとなった。4月には、厚生労働省は原因究明のために使用化学物質の特定や曝露状況の調査に着手した。当時の曝露状況を推定するための模擬実験から、1,2-ジクロロプロパン(以下、DCP)およびジクロロメタン(以下、DCM)による作業者の高濃度曝露が推測され、また汚染空気が環流するなど換気設備などに問題があったことが判明した。その後の調査で、当該事業場では1991年4月(現社屋に移転)から2012年12月までの間に70名の男性労働者が校正印刷部門に在籍しており、16名が胆管がんを発症し、うち7名が死亡していることが判明した。厚生労働省の「印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検討会」は、胆管がんを発症した16名全員が曝露した化学物質は、校正印刷業務で多量に使用されていたDCPであり、本物質に長期間、高濃度曝露したことが原因で発症した蓋然性が極めて高いと判断した。またDCMについては、曝露期間が限定的であり、16名中5名はDCMの曝露はなかったこと、またDCPとの混合曝露による影響の度合いは不明であることから、発症原因として推定するには至らなかった。
  本事案で、胆管がんの原因とされたDCPが有機溶剤中毒予防規則などの特別規則の対象外の物質であったことも衝撃的であった。7月には、厚生労働省は有機塩素系洗浄剤を用いた洗浄作業に対する予防的曝露防止措置を講ずるよう通達を発出した。

<化学物質管理の見直し>

   その後、本事案が契機となり、発がんのおそれのある化学物質管理の見直しが始まった。 厚生労働省は、リスク評価の結果、DCPについて規制が必要と判断し、特定化学物質障害予防規則が改正され、特定化学物質としての健康障害防止措置が義務づけられた(2013年10月施行:詳細は厚生労働省HPを参照、以下同様)。
  また、有機溶剤予防規則の規制の対象物質のうち、発がん性のおそれのある10物質(DCMを含む)が特定化学物質の第2類物質かつ特別管理物質となり、発がん性を踏まえた健康障害防止措置が義務づけられた(2014年11月施行)。
  さらに、2014年6月、労働安全衛生法の一部を改正する法律が公布され、化学物質に関するリスクアセスメントの実施が義務化されることになった(平成28年6月までに施行予定)。これにより、安全データシート交付義務の対象となっているすべての化学物質についてリスクアセスメントの実施が義務づけられる。 
  一方、日本産業衛生学会は、2014年5月にDCPを発がん分類の第1群(ヒトに対して発がん性があると判断できる物質)とする暫定案を示した。DCMについては、これまで発がん性物質第2群B(ヒトに対しておそらく発がん性があると判断できる物質であるが、その証拠が比較的十分でない物質)に分類していたが、同群欄にDCMと、物質ではない「オフセット印刷工程」を検討中として標記している。また、国際がん研究機関(IARC)もDCPをGroup 3 (発がん性物質かどうか分類できない)からGroup 1 (発がん性がある)とした(2014年7月)。DCMはGroup 2B(発がん性をもつ可能性がある)からGroup 2A(おそらく発がん性がある)に引き上げた。
  以上のように、労働者の安全と健康の確保対策を一層充実するために化学物質の管理が強化され、事業場に対して化学物質の自主管理がさらに求められることになった。それには事業者と労働者が危険有害性の正確な情報を共有し、事業場が適切にリスクアセスメントを実施できるように、簡易方法の開発・相談・指導体制の整備など十分な支援措置も講じる必要がある。


平成27年3月 第765号 掲載
「産業保健の話題(第163回)」

鹿児島県人は全国平均の1.4培「脳卒中」で死亡“予防の秘策を探る”

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  德永 龍子
(鹿児島純心女子大学名誉教授)

 
  鹿児島県では,人口10万対全国平均の1.4倍の方が毎年「脳卒中」で亡くなる。それを平均寿命日本一の長野県と比較すると、鹿児島県は男性の悪性新生物、肺炎、心疾患が多く、脳卒中は同程度である。脳卒中の死亡率/年齢調整死亡率比をみると、鹿児島県は働き盛りの中高年死が長野県よりやや多い。同様の結果を、以前離島に勤務された保健所長からも聴いた。その原因が大量飲酒であり、地域ぐるみで保健計画を作成し飲酒量を減らす予防活動を展開されたという。働き手の脳卒中は、半身麻痺や死亡への不安、医療費の負担増 、社会損失などの経済コスト面から深刻な社会問題である。

  まずは鹿児島労働局の定期健康診断有所見者数の推移を見てみる。鹿児島県は平成23年まで年々上昇し53%であったが、平成24年51.7%、25年51.2%と低下し、53%代の全国平均を下回った。低下項目は、血中脂質、血圧、肝機能検査、尿糖、心電図であり、低下の継続が予防の秘策となる。しかし、平成23年県民健康状態実態調査をみると、血圧が高い指摘を受けた3割、コレステロールが高い指摘を受けた5割が治療をまったく受けないか途中でやめている。なぜだろうか。
  私は、保健所勤務時代、治療継続の要因分析をした。その際、有意に高い要因は、「治療開始時の診断名、医療計画を含めた十分な医師の説明」であった。その後一月以内に保健師の保健指導があり納得した人は治療継続率が高かった。つまり、当事者の意向を尊重した説明と同意による治療である。脳卒中予防の秘策は、定期健診後の医師によるインフォームドコンセントと保健師による実効ある保健指導が成果を左右する。
  県庁ホームページにある鹿児島県の課題は、大量飲酒、運動不足、喫煙、塩分過剰とある。成果予測をみると、1日平均3合以上飲酒の人の脳出血、くも膜下出血のリスクは、時々(月1~3日)飲酒の人の2.5倍。運動習慣がない人の脳梗塞発症リスクは、ある人の2.5倍。喫煙者の脳卒中死亡リスクは、吸わない人の1.5~4倍。脳卒中の治療は一刻を争う。周囲の人が,脳卒中による顔の麻痺,腕の麻痺,言語障害の異変に気づき,素早く受診させる。定期健診・保健指導に加えて、県下モデル市町村で実践される健康講話、広報活動、重症化防止の活動を支援し、県民が本気で課題に取り組む事が秘策となる。
  さらに、労災保険二次健診の見直しと35歳の節目健診を提案したい。労災保険二次健診は、血中脂質・血糖検査及び心臓・頸部エコー、微量アルブミン尿検査で治療、生活改善の動機づけとなっている。現在、健診対象外は心臓、脳疾患通院中の方である。高血圧、糖尿病、脂質異常症、腎臓病により通院中、連続受診者は対象者である。これらの方は主治医に相談して医療保険で対応すべきと考える。その余剰金を補助財源として男性肥満が増え始める35歳を対象に血糖・血中脂質・貧血検査等を定期健診に加えるモデル事業を実施する。発症リスクが早く分かり生活課題に早期に取り組めば、脳卒中予防の秘策になるかも知れない。


平成27年2月 第764号 掲載
「産業保健の話題(第162回)」

君が僕の息子について教えてくれたこと

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  山喜 高秀
(志學館大学人間関係学部 教授)

 
  『君が~くれたこと』というこのタイトルは、今年8月16日にNHK総合で放映された 「これは1冊の本から生まれた希望の物語」というテロップで始まるドキュメンタリー番組のタイトルです。その本は、東田直樹さんという22歳の無名の若者が13歳の時に書いた「自閉症の僕が飛び跳ねる理由」という自閉症の心の内を綴った著書で、世界20か国以上で「The Reason I Jump」として翻訳されたベストセラーです。
  この番組は、彼の本を最初に世界に英訳で紹介した、自身も自閉症の息子をもつアイルランド在住の作家デイヴィッド・ミッチェルさんとの出会いを中心に構成されたドキュメンタリーです。私はこれまで臨床心理士として自閉症の子どもたちに関わってきましたが、これほどまで自閉症と言われている子どものたちの心の世界に触れた体験はなかったように思います。今回は、その中のいくつかの場面を紹介したいと思います。
  直樹さんは5歳の時自閉症と診断されます。言葉は発しないのに漢字などの文字に関しては抜群の記憶力。7歳で文章を書き始め、書いた童話がグリム童話賞の大賞を2年連続でとります。ご両親がその才能を大切に伸ばしてこられた結果が、今回の放送につながります。

  シーン1=語られる彼の世界=(以下:直樹さんの言葉「」、その他の人の言葉<>)
   「僕がピョンピョン飛び跳ねている時いったいどんな気持ちだと思いますか?すごく興奮しているから何にもわかってないと思われるでしょう。でも、その時の僕の気持ちは空に向かっています。空に吸い込まれてしまいたい気持ち。そのまま鳥になってどこか遠くへ飛んでいきたい気持ちになるからだと思います。」<どうしてうまく会話出来ないのですか?>「話したいことは話せず関係のない言葉がどんどん勝手に口から出てしまうからです。自分の体さえ自分の思い通りにならなくて、まるで不良品のロボットを運転しているようなものです。」<何度も同じことを尋ねるのは?>「今言われたことも、ずっと前に言われたことも、僕の頭の中の記憶としてはそんなに変わらないのです。他の人の記憶は線のようでも、自分の記憶は点の集まりでそれを拾い集めながら記憶をたどっています。」  
  シーン2=ミッチェルさんとの対談=
  初めての出会いに飛び跳ね目も合わせず、いつものように外の好きな車の車輪ばかり見つめる直樹さん。それをやさしく見守るミッチェルさん<私にできることは待つこと。直樹君に空間と時間を与えること。>15分後ようやく始まった対談。<どんなものが怖いですか?>「人の視線が怖いです。人はいつも刺すような視線で見ます。」<一番幸せな瞬間は?>「昔は自然と一体化した時間が幸せでした。今は家族で笑っている時・・」<自閉症の息子にお父さんとしてどうすればいいですか?>「そのままで十分だと思います。子どもが望んでいるのは、親の笑顔だからです。僕のために誰も犠牲になっていないと僕に思わせてくれたのが僕の家族のすごいところです。」  

  以上は、番組のほんの一部です。他にも、直樹さんの主治医でもある児童精神科医の杉山登志郎Drとの診療での深く真摯なやりとりなど、とても感じ考えさせられる1時間です。YouTubeにアップされていますので是非検索してみてください。


平成27年2月 第764号 掲載
「産業保健の話題(第161回)」