お知らせ

令和2年4月

 セクハラの話など

川津 学
(南薩医師会)
(医療法人椎原会 有馬病院)

 病院という医療の現場も施設という福祉の現場も、つまるところ女性の職場である。私は大学病院を辞めて民間病院に院長職で入職して20年になるが、まず何はともあれ女性スタッフをえこひいきしないと肝に銘じてやってきた。すんでのところでこらえるのである。冗談でも思いつけば満遍なく言わねばならないので、そのため私は冗談の多い男になってしまった。

 しかし病院が地域で評判をとるには、若いスタッフのきびきび働いている姿が欠かせない。それゆえ若いスタッフを大切にしたい私は、ついうっかりとそのようなことを口走ることがあり、自分たちこそ病院の柱だと思っている各部署のベテラン陣から、「まあ、ひどい」 とわざとらしい大袈裟な非難を浴びることになる。「焼きもちだね、焼きもち。君たちも若いころには先代や、先々代から大切にされ、ちやほやされたはずだ。それがわからなかったんだね。不幸なことだ。順番はちゃんときて、油断している間に去ったのだ。満つれば欠くる、というではないか」。

 さてセクハラの話だが、わが病院ではこの20年で2人の男性職員を辞職させた。どのケースも彼らはまずシラを切る。シラを切って澄ましている。「いい加減にせい。何を寝言を言っているのだ。証拠はあがっているぞ」。私は静かに言い放つのである。

 一人目は20代の女性看護師が被害者である。加害者は他の部署の職員。

 加害者は常日頃何彼となく相談される間柄を逆手に取って、夜9時過ぎ、母子家庭に乗り込み、寝ている子供たちの隣で朝まで何度も事を迫り、結局未遂に終ったのだが、それ以降は携帯電話やメールで未遂に終わった時の様子を細かく描写しなおも事を迫る淫望にみちたメールを未練がましく送り続けたのである。この時のメールが数本残っていて、言い逃れができなくなった。

 その後は被害者にふるえや持病の喘息発作が起こるようになり、とうとう病院の労務担当者に訴え出た。

 双方を同時に呼んで事実を確定した後は、労働基準監督署に相談したが、病院としては就業規則の規定により『減給3か月かつ出勤停止7日』を検討していると伝えると、一事案一処罰が原則ゆえ基準法に違反すると言われ、降格人事や賞与時の査定という手があるとアドバイスを受けた。

 はてどうしたものかと考えながら、謝罪文を書かせ被害者に渡して受け入れてもらい裁判の意思がとりあえずないことを確認し、問題発覚から3Wの休職期間の給与と配置換えを提案したが、新しい職場で再出発したいとの希望が強く配置換えは拒否された。被害者は退職し加害者はその後1Wで辞表を書き病院を去るという結末を迎えたのである。

 二人目のケースは紙面の都合で概略のみであるが、20代の当院通院の患者さんが被害者である。男性職員が仕事にかこつけ自宅にまで出かけたりもして身体接触(いわゆる猥褻のレベル)を繰り返し、信頼を裏切り自尊心を徹底的に傷つけている。このケースでは、院長として職員の教育指導はどうなっているのかと強く責められた。病院労務担当者に訴えがあった翌日には一転して本人が相手の言い分を認め謝罪したが、労働基準監督署にも相談し、その日のうちに懲戒解雇処分を下した。

 以上のようなことがあれば、セクハラや猥褻への関心を高めるような日頃からの取り組みが大切になってくる。もとよりそれは承知で事例研究を職員会の中で行うことを怠っていないつもりだったが、実際には、取り組みをよそに、このようなケースが出てきてしまう。日暮れて道遠し、という他ない。一罰百戒のために、職員に二つの事案を隠さず、詳しい情報を出してしまいたいところだが、武士の情けで、そこまではできない。

 最後に、先日認知症のない入院の患者さんが、午後廊下で若い男性職員の頬をひっぱたくということがあった。加害者は理由がそれなりにあってのことだと言い、職員も力一杯のひっぱたき方ではなかったと応じたが、院内の暴力は理由は問わないと強制退院を言い渡し,その日の夕方には家人に引き取らせた。男性職員もやはり守ってやらなければならないのである。

産業医だより 2020年4月