令和7年4月
産業保健の未来:高齢化社会における新たな挑戦
大山 徹也
(曽於医師会 産業保健担当理事)
現代社会において、産業保健の重要性はますます高まっています。近年は労働安全衛生法が制定された当時には想定されていなかった健康課題が生じており、例えばメンタルヘルス対策及びメンタルヘルス不調者への対応(職場復帰、就業管理等)の増大や、高年齢労働者の増加に対する疾病管理や重症化予防(増加を続ける健診の有所見率)などです。メンタルヘルス対策においては2015年にストレスチェック制度が制度化されたものの、精神障害で労災認定される数は増加の一途をたどるなど、メンタルヘルス不調者の減少という結果に結びついていないのが現状です。高血圧や糖尿病、脳血管疾患などのいわゆる生活習慣病や眼科疾患等の有病率が高まる高年齢者の就業者数の増加により、一般健康診断における有所見率は増加を続けており、これらの新たな課題は年々深刻化しています。
労働力不足も重要な課題です。総務省統計局の労働力調査(季節調整値)によりますと、2025年1月の就業者数は6827万人で、そのうち65歳以上は934万人と全体の13.7%を占めています。10年前の2015年1月の就業者数は6297万人で、そのうち65歳以上は614万人と全体の9.7%で全就業者数に対する高年齢者の占める割合は増加傾向にあります。また、パーソル総合研究所・中央大学がまとめた「労働市場の未来推計2035」では、2035年は労働需要に対し、働き手ですると384万人不足し、2023年と比較して労働力不足は1.85倍深刻になるとの推計結果が発表されています。働き手の数は増えていくが、就業者全体の中で、短時間で働く傾向にある高年齢者や女性、外国人などの占める割合が大きくなることと、働き方改革などの影響により就業者全体の働く時間が短くなることで、労働力はさらに深刻化するとの推計結果であり、このように、日本には労働力の減少や少子高齢化による高年齢労働者の増加といった社会課題があり、労働災害の増加や労働生産性の低下などが危惧されています。
近年のデジタル技術の発展はめざましく、 日常生活にも浸透しており、例えばAI家電、スマートウォッチなどの体温、血圧、心拍、心電図、睡眠状況、血中酸素濃度などを常時把握可能なウェアラブルデバイス、楽しみながら運動や健康づくりに取り組めるアプリなど、家事労働の負担軽減、手軽に行える健康管理ツールとして役立つ存在となっています。
これからの産業保健において、進化を続けるAI、ロボット技術、IoTなどのデジタル技術を有効的に活用し、機械でもできる仕事は機械に任せ、効率化を図り人の負担を減らすことで、労働力不足、労働時間の短縮、メンタルヘルス不調者の減少につながるのではないでしょうか。健康的に働き続けることができる職場環境づくりのため、産業保健とデジタル技術を、さまざまな場面で連携し、活用することが期待されます。
産業医だより 2025年4月