お知らせ

令和5年12月

利用者(消費者)側の理解

      今村 英世
(川内市医師会理事)
(今村クリニック院長)

私は保育所、建設業、サービス業など6事業所の嘱託産業医を務めています。一方で、代表を務めている社会福祉法人は、10の事業所を運営し、そのうち50人以上の労働者を使用する事業所は一つで市内の先生に産業医をお願いしていますが、産業医適用事業所でない9事業所の労働環境整備にも同じように取り組んでいます。産業医を務める安全衛生委員会では同じ経営者として労働者の高齢化と職員確保など経営者側のご苦労もよく理解できます。国が定めた年次有給休暇の取得義務を新型コロナウイルス感染症の影響もあり、せめて年休の買取制度を特例として認めて欲しいとの意見も聞きました。私のクリニックでは、昨年度新リハビリ棟を整備しました。建設事業者には、工期短縮や休日勤務をお願いしましたが、お互いに協力の上、出来る範囲での工期短縮が実現しました。

2019年施行の働き方改革関連法の猶予期間終了は2024年問題と言われております。猶予期間が適用されていた医師、建設業、物流(運送業)などの事業者は、来年4月からの取組みがまったなしの状況です。例えば物流では時間外労働の上限規制やインターバル制度の導入に対し、リレー運送を可能とする中間施設を整備する報道もありました。中小事業者の多い本県では経費増により、ますます厳しい経営環境となります。

小中学校教師の過重労働に対し、経営者側に当たる市町村教育委員会は文部科学省や県教委の指示待ちで主体性がない。教師の働く環境はブラック企業並みで都会の教員募集は定員割れが生じている。市町村教育委員会には独自の取組みが求められているとの記事を拝見しました。労働環境整備に対する経営者側の努力不足の指摘はそのとおりだと思います。ただ、医療福祉や教育部門は公共単価による一定基準の運営が求められています。労働環境改善には予算の拡充が必要です。義務教育は保護者の義務でもあります。家庭教育の分野まで学校に押し付けていないか、部活動はどこまで教師が担うべきか。

物流の働き方改革は、当たり前と考えられている翌日配送サービス等が現場の懸命な努力で支えられているが、これまで通り堅持できるのか。業務軽減に効果的なITシステムの活用は不可欠であるが、体力のある企業だけが生き残り地方の中小事業者は淘汰されても仕方がないのか。働き方改革は経営者と労働者だけの問題なのか、改善に必要な経費は企業努力だけでなく、利用者(消費者)にも転嫁できる、医療福祉教育等の公共サービス部門では税・保険料の増など、土台となる仕組の上に競争がなければ下請けいじめや中小事業者の倒産が避けられない国民全体の課題だということも周知してほしい。その意識醸成が大切だと改めて感じています。

産業医だより 2023年12月