令和6年6月
『介護施設における腰痛対策』
ヘルスサポートセンター鹿児島
保健師 橋野 理咲子
当事業場には、2ヶ月に1回産業医と訪問し、職場巡視・衛生委員会への参加(施設長、衛生管理者、一般従業員数名で構成)・面談を行っています。
腰痛は業務上疾病の約6割を占めており、特に腰に負担のかかる作業が多い介護施設では予防的介入が不可欠です。施設長と衛生管理者は腰痛に対する問題意識が高く、すでにノーリフトケア推進委員会を立ち上げ、福祉用具の活用推進や正しい作業姿勢の教育に努めておりました。私たち産業保健職からは巡視をする度に、腰痛体操の紹介や食事介助の際に使う椅子の変更や座り方の指導を行っておりました。しかしながら大きな改善はみられず、腰痛健診で約10%の方が要受診となったことで、産業医と私は本格的な介入が必要であると感じ、衛生委員会でその旨を伝えました。すると、従業員の腰痛予防に対する意識が低いため、対策を講じても改善せず、行き詰まっていることがわかりました。そこで、取り組むべき課題を明確にすることと、従業員の腰痛予防に対する意識を高めることを目的に全従業員に対してアンケート調査を実施することになりました。
調査の結果、腰痛がある方は44%と多く、そのうち業務の質に影響するほどの腰痛がある方の割合は約85%と高い状況でした。また、腰痛の正しい知識を持つ方や、自身で予防対策を行っている方は約10%と少数という課題が明らかになりました。この結果を衛生委員会で報告したところ、従業員の方から『介護職だからこそ腰が悪くならないように努力すべきだと思った』という意見が挙がり、『介護職だからこそ腰痛対策を強化しよう』ということで意見がまとまりました。そして、『腰痛がある方の割合を X年◯月までに35%未満にする』という目標を掲げ①業務前(朝礼・夕礼時)の腰痛体操導入②従業員向けの産業医講話(調査結果、腰痛の対策法)③保健師による資料提供(腰痛の正しい知識)を行うことが決定しました。これらの取り組み以外にも、講話の内容を全体研修で周知したり、提供した資料の閲覧者を増やすためにSNSを活用したり、福祉用具の正しい使用方法の動画を作成するなど、事業場側の主体的な取り組みがみられるようになりました。
半年後の調査では、業務の質に影響するほどの腰痛がある方は約20%減少、腰痛の正しい知識を持つ方は約20%増加という良好な結果が得られました。一方で、自覚症状がある方の割合は改善が見られず、腰痛体操の実施率は35%と低いことが確認されました。衛生委員会で話し合ったところ、朝礼・夕礼への参加者が少ないため腰痛体操の実施率が低いことが課題として挙がりました。そこで今後は申し送り時にペアで実施するように呼びかけることになりました。また、作業姿勢についても新たな課題が見つかったため対策を検討しております。今後も定期的にアンケート調査を行い、PDCAを回しながら支援を継続していきます。
本事例を通して、アンケート調査は、事業場主体の取り組みにつなげるには効果的であることを実感しました。結果が出るには時間がかかると思いますが、事業場が主体的に取り組みを継続するということが何より重要です。今回の経験を活かし、職業柄仕方ないと思われているものこそ取り組むべき課題ではないかという視点を忘れず、アンケート調査も一つの手段として効果的に活用し、ひとつでも多くの職業病の予防と改善のために貢献していきたいと思います。
保健師だより 2024年6月