お知らせ

令和7年10月

「健康診断を活用した産業保健支援」

公益財団法人 鹿児島県民総合保健センター
保健師 土器屋 裕美

私ども県民総合保健センターは、働く人々の健康を支える一員として、日々事業場の一般健康診断や特殊健康診断の実施に携わっています。今回は当機関の健康診断を活用した産業保健支援の取り組みについてご紹介いたします。

健康診断は、受けることがゴールではなく、その後の活用こそが重要です。例えば、健診で有所見と判定された方に再検査や精密検査の受診を促しても、実際には受診が進まないケースが少なくありません。その背景には、受診の必要性が十分に理解されていない、業務の忙しさから後回しになってしまう、あるいは再検査への心理的ハードルがあるなど、様々な要因が考えられます。そうした際には、事業場の産業保健スタッフの皆さまとの連携が大きな力となります。

また、健診結果の集計・分析を通じて、事業場ごとの健康課題を可視化することが、職場全体の健康管理の第一歩となります。脂質異常や糖尿病といった生活習慣病のリスクが高い層が多い、年々BMIが上昇している、メンタル不調を抱える人が増えているなど、数値の裏に隠れた傾向を読み解くことで、より効果的な保健指導や健康教育へとつなげることができます。

当機関では、希望される事業場に対して、健診結果の集団分析や過去との比較レポートをご提供し、職場全体の健康傾向を把握しやすくしています。これにより、健診結果が「見て終わるもの」から「生かすもの」へと変わるようサポートいたします。

一方で、私ども健診機関にとっても、産業保健スタッフの皆さまとの密な情報共有は不可欠です。職場によって業種や勤務形態、従業員の年齢構成、健康リスクは異なります。そのため、健診実施前の打ち合わせや個別の健康課題に関するご相談などを通じて、現場に即した柔軟な対応を心がけており、健診が単なるルーチン業務ではなく、職場にとって意味のある健康づくりの機会となることを目指しています。

特に昨今では、「健康経営」や「ウェルビーイング」の重要性が高まっており、健診結果を経営的視点で活用したいというご相談も増えています。従業員の健康データは、職場全体のパフォーマンスや離職率、生産性にも影響する貴重な情報です。そのため、今後は健診の在り方も、より戦略的な位置づけが求められると感じています。

2025年も残りわずかとなりました。今年は5月に労働安全衛生法が改正され、2028年までに労働者数50人未満の企業を含むすべての事業場に対して、ストレスチェックの実施が義務付けられることとなりました。この機会に、「今年の健診を、来年の健康施策にどう生かすか?」という視点で、振り返りと次の一歩を検討されてはいかがでしょうか。

今後も皆さまのお力になれるよう努めて参りますので、ご不明な点やお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。

保健師だより 2025年10月