メールレター第183号
鹿児島産業保健総合支援センター メールレター第183号 2018/06/01
発行:鹿児島産業保健総合支援センター 所長 草野 健
相談員からのメッセージ
結核発生届の遅れから集団感染に!
産業保健相談員 徳留 修身
(担当分野:産業医学)
結核発生届の未提出や遅れは集団感染の発生や拡大につながります。死亡後に診断が確定する場合でも診断前に周囲に感染させている可能性があり、発生届は必要です。
結核患者であると診断した医師は、直ちに保健所に届出を提出する必要があります(感染症法第12条第1項)。届出を受けて保健所は患者と接触した人々を把握し、接触者健診を実施します。患者の周囲からの発病者を早期発見し、感染者には発病予防(従来の「化学予防」、「予防内服」、現在は「潜在性結核感染症の治療」)を行い、感染や発病の拡大を防ぎます。接触者健診は初発患者発生から通常2年の期間を追跡します。結核の感染から発病は大半が2年以内であることがその根拠です。ただしその後のリスクも消失しないため定期健康診断と有症時(2週間以上続く咳または痰)の受診は必要です。
患者が死亡したのちに活動性の(治療を要する)結核であったと診断した場合や剖検で診断した場合も発生届を提出する必要があります。これを怠って集団感染が発生または拡大した事例を紹介します。
事例1.
ある精神病院で約2年にわたり10名の結核患者が発生。接触者に対する定期外健康診断では感染源を特定できず。過去の退院患者等を検討したところ、結核が疑われる患者が診断を進める中で死亡し、その後結核が判明した事例あり。この患者が発病者のほぼ全員に接触していたことも判明し、感染源と推測される。この死亡退院の患者については発生届が提出されず、院内感染が拡大。
事例2.
警察署に留置された男性に咳症状出現、翌月留置中に死亡。剖検により死s因は活動性結核であったことが警察に報告されたが保健所への届出が遅れる。接触者健診の対象は131人で、警察署内での接触者から7人の発病者と14人の感染者。医療・病理関係者から4人の発病者と11人の感染者。
おすすめ教材(無料貸出し等)
当センターでは、産業保健に関する図書、ビデオ・DVDを無料にて閲覧・貸出ができます。
ぜひご利用ください。
★★★おすすめ図書 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
わかりやすいパワーハラスメント 裁判例集
(分類:7-115,財団法人21世紀職業財団, 2009年発行, 179頁)
【概要】
この裁判例集はパワーハラスメントに関すると考えられる裁判例の中から重要と思われるものを時系列に整理し、それぞれに「事案の概要」「結果」「判旨」をわかりやすくまとめたものです。
★★★おすすめビデオ ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★)
管理職のためのパワハラを起こさない職場づくり
(分類:7-76,株式会社自己啓発協会 映像事業部)
【内容】
ひとたび職場に起こると、被害を受けた本人だけでなく、職場全体の士気に影響し、生産性の低下も招くパワーハラスメント。また、訴訟にまでなると企業のイメージ低下は避けられません。パワハラ上司にならないための手法を、セルフチェックリストとアサーションを用いて、ケースで紹介します。
研修セミナーのご案内
すべてのセミナーにどなたでもご参加いただけます。
(定員は各セミナー30名、場所は光健ボイスビルです)
6月
● 9日(土) 13:30~15:30【徳留先生】
※会場:鹿児島市医師会館(鹿児島市加治屋町3-10)
「職場における喫煙対策」日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
☆14日(木) 14:00~16:00【赤崎先生】
「労働災害の判定基準-メンタルヘルス編-」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
● 18日(月) 14:00~16:00【冨宿先生】
「騒音作業者が知っておきたい知識」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
☆21日(木) 14:00~16:00【河村先生】
「治療と就労の両立支援について」
日医産業医認定単位:生涯(更新)2単位
● 22日(金) 14:00~16:00【德永先生】
「生活習慣病予防のための食事・運動指導」/ THP対象研修会
日医産業医認定単位:生涯(実地)2単位
● 26日(火) 18:00~20:00【門松先生】
「歯周病とメタボリックシンドローム」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
7月
☆6日(金)14:00~16:00【小田原先生】
「ストレスチェック事例検討」
日医産業医認定単位:生涯(実地)2単位
☆7日(土)14:00~16:00【前田先生・桑原先生】※鹿児島県医師会主催
「健康づくりのための運動指導について」/ THP対象研修会
※会場:鹿児島県医師会(鹿児島市中央町8-1)
日医産業医認定単位:生涯(実地)2単位
☆7日(土)16:10~17:10【大澤先生】※鹿児島県医師会主催
「労働衛生関係法令/ THP対象研修会
※会場:鹿児島県医師会(鹿児島市中央町8-1)
日医産業医認定単位:生涯(更新)1単位
☆9日(月)14:00~16:00【冨宿先生】
「現場での応急手当 最新版」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
☆ 11日(水)14:00~16:00【長友先生】
「うつ病への対応② -身体疾患の併存-」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
☆19日(木) 14:00~16:00【河村先生】
「治療と就労の両立支援について」
日医産業医認定単位:生涯(更新)2単位
● 20日(金)14:00~16:00【久留先生】
「メンタルヘルス・カウンセリングⅡ
「パワハラ、セクハラ」の心理支援(トラウマ、PTSD)」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
● 23日(月)18:00~20:00【堀内先生】
「職域における身体活動と健康/ THP対象研修会
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
☆28日(土) 14:00~16:00【黒沢先生】
※会場:鹿児島市医師会館(鹿児島市加治屋町3-10)
「職場巡視と労働衛生管理」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
☆…産業医対象で、産業医認定単位があります。
● …産業保健スタッフですが、産業医認定単位はあります。
お知らせ
◆◆鹿児島産業保健総合支援センター情報◆◆
産業保健に関するご質問・ご相談を受け付けています。
当センターでは、メンタルヘルス対策や治療と仕事の両立支援対策をはじめ、産業保健に関する様々なご質問・ご相談を受け付けています。お気軽にご相談ください。
詳細⇒https://kagoshimas.johas.go.jp/about/otoiawase/contact.html
メンタルヘルス対策支援のご案内
従業員の心の健康対策への取組方法がわからないという事業場の皆さまへ私たちは、メンタルヘルス対策に取り組もうとする事業場を支援します。
詳細⇒ https://kagoshimas.johas.go.jp/about/mental/cat426/work.html
地域産業保健センターのご案内
労働者数50人未満の小規模事業場では、労働者に対する産業保健サービスを充実させることを目的に、地域産業保健センターが設けられています。
詳細⇒ https://kagoshimas.johas.go.jp/about/cat638/post_15.htm
治療と職業生活の両立支援事業
当センターでは、両立支援に関する各種支援を無料で提供しています。ぜひご活用ください。
詳細⇒ https://kagoshimas.johas.go.jp/about/cat765/cat768/post_18.html
両立支援出張相談窓口
当センターでは、国立病院機構 鹿児島医療センター内に設置していた「両立支援出張相談窓口」に加え、4月から鹿児島大学病院内にも「両立支援出張相談窓口」を設置しました。両立支援出張相談窓口の設置状況は次のとおりです。
(1)国立病院機構 鹿児島医療センター がん相談支援センター内
相談窓口開設日時・・毎月第1・3火曜日 10時~13時
6月の相談日 → 5日(火)・19日(火)
7月の相談日 → 3日(火)・17日(火)
8月の相談日 → 7日(火)・21日(火)
(2)鹿児島大学病院 地域医療連携センター内
相談窓口開設日時・・毎月第3木曜日 10時~12時(事前予約が必要です)
6月の相談日 → 21日(木)
7月の相談日 → 19日(木)
8月の相談日 → 16日(木)
鹿児島産業保健総合支援センターの両立支援促進員がそれぞれの医療機関のソーシャルワーカーなどと連携してご相談に応じます。相談は無料です。両立支援に関するお悩み等にについてご相談下さい。
詳細⇒
▼両立支援出張相談窓口
https://kagoshimas.johas.go.jp/information/ryouritsushien-6-8gatsu.pdf
▼鹿児島医療センター内(リーフレット)
https://kagoshimas.johas.go.jp/about/ryouritusien-iryousennta.pdf
▼鹿児島大学病院地域医療連携センター内(リーフレット)
https://kagoshimas.johas.go.jp/about/ryouritusien-kadaibyoin.pdf
◆◆◆厚生労働省情報◆◆◆
「治療と仕事の両立支援ナビ」ポータルサイト(再掲)
詳細⇒ https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案が提出されました。
詳細⇒
▼「働き方改革」の実現に向けて
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
▼働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案
*概要
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-31.pdf
*法律案要綱
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-32.pdf
*法律案案文・理由
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-33.pdf
*法律案新旧対象条文
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-34.pdf
*参照条文
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-35.pdf
高所からの墜落による労働災害を防止するための措置の強化案について
厚生労働大臣が、5月23日、労働政策審議会に対し、高所作業を行う労働者の墜落による労働災害を防止するための措置の強化案となる「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令案要綱」と「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案要綱」について諮問を行い、同日、同審議会から、妥当であるとの答申がありました。政省令等の公布は本年6月中、施行は平成31年2月1日予定です。
詳細⇒ http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000207721.html
6月は「外国人労働者問題啓発月間」です
厚生労働省では、毎年6月を「外国人労働者問題啓発月間」と定めています。
【標語】
「外国人雇用はルールを守って適正に
~外国人が能力を発揮できる適切な人事管理と就労環境を!~」
【実施期間】
平成30年6月1日(金)から6月30日(土)までの1か月間
詳細⇒ http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000208921.html
平成29年の労働災害発生状況(全国)を公表
平成29年については、死亡災害、休業4日以上の死傷災害の発生件数はともに前年を上回り、それぞれ978人(5.4%増)、120,460人(2.2%増)となりました。死亡災害は3年ぶり、死傷災害は2年連続で増加しました。
詳細⇒ http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000209118.html
◆◆◆鹿児島労働局情報◆◆◆
平成29年の労働災害発生状況(確定)
○ 鹿児島県内の労働災害による休業4日以上の死傷者数は、近年高止まりで推移。平成29年は対前年
比で24人(1.2%)減少したものの、1,961人と高い水準。死亡者数は対前年比で1人増加して、21
人。
○ 業種別の死傷者数は、製造業 377人(対前年比-5人)、建設業 312人(同-2人)、陸上貨物運送事
業 171人(同-14人)、商業 251人(同-7人)、保健衛生業 281人(同-9人)。
○ 業種別の死亡者数は、製造業1人(同-1人)、建設業8人(同+4人)、陸上貨物運送事業2人
(同±0人)、林業1人(同-4人)、畜産・水産業2人(同+1人)、商業 1 人(同-3人)、
清掃・と畜業2人 (同+1人)。
詳細⇒
▼H29年の労働災害発生状況
https://jsite.mhlw.go.jp/kagoshima-roudoukyoku/content/contents/H29saigai_2018-0418-1.pdf
鹿児島労働局版の第13次労働災害防止計画が策定されました
鹿児島労働局は、2018年度を初年度として、今後5年間にわたり鹿児島労働局が重点的に取り組む事項を定めた新たな「労働災害防止計画」を策定しました。
【目標】
○ 労働災害による死亡者数を2017年と比較して各年25%以上減少させること
○ 労働災害による休業4日以上の死傷者の数を2017年と比較して2022年までに各年1%、5年間で5%以上減少させること
詳細⇒ https://jsite.mhlw.go.jp/kagoshima-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/anzen_eisei/anzen/2013-0417-2.html
◆◆◆労働者健康安全機構情報◆◆◆
平成30年度産業保健関係助成金のお知らせ
平成30年度は「心の健康づくり計画助成金」の対象を従来の「企業本社」に「個人事業主」を加え、また「小規模事業場産業医活動助成金」を「産業医コース」「保健師コース」「直接健康相談環境整備コース」の3つのコースに分け、対象範囲を拡大しました。職場における労働者の健康管理等のために、ぜひご活用ください。
【助成金の種類】
・ストレスチェック助成金
・職場環境改善計画助成金(Aコース、Bコース)
・心の健康づくり計画助成金
・小規模事業場産業医活動助成金
(産業医コース、保健師コース、直接健康相談環境整備コース)
詳細⇒ https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1253/Default.aspx
労災疾病等医学研究普及サイトのご案内
労働者健康安全機構では、労働災害の発生状況や行政のニーズを踏まえ、労災補償政策上重要なテーマや新たな政策課題について、時宜に応じた研究に取り組んでいます。
今般、平成26年から平成30年末までの4年間、労災病院グループ等で取り組んでまいりました労災疾病等医学研究の研究成果、普及活動等を取りまとめた「研究報告書」を以下の普及サイトに掲載しました。新たな研究報告になりますので、ぜひご覧ください。
≪労災疾病等医学研究普及サイト≫ http://www.research.johas.go.jp/
≪今回のテーマ≫
1. 腰痛
http://www.research.johas.go.jp/youtsu/thema01.html
2. 作業関連疾患
http://www.research.johas.go.jp/sagyou/thema01.html
3.じん肺
http://www.research.johas.go.jp/jinpai2015/thema01.html
4.アスベスト
http://www.research.johas.go.jp/asbesto2015/index.html
5.生活習慣病
http://www.research.johas.go.jp/seikatsu/thema01.html
6.外傷性高次脳機能障害
http://www.research.johas.go.jp/koujinou/thema01.html
7.睡眠時無呼吸症候群
http://www.research.johas.go.jp/sas/thema01.html
8.就労支援と性差
http://www.research.johas.go.jp/shurou/thema01.html
高ストレス者に対する面接指導視聴覚教材のご案内
この視聴覚教材は、長時間労働者や高ストレス者に対する産業医の面接指導を適切に実施できるよう開発された支援ツールです。
なお、この視聴覚教材は、「面接指導版 嘱託産業医のためのストレスチェック実務Q&A」(2016年 公益財団法人産業医学振興財団 発行)を参考に制作したものです。
詳細⇒ https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/johoteikyo/kyozai_manual/tabid/139/Default.aspx#a
所長よりひと言
5月16日からの4日間、熊本市で(会長は加藤熊本大学公衆衛生学教授)「悠(はるか)なる産業保健―人と科学技術の連鎖―」をメインテーマとして第91回日本産業衛生学会が開催されました。3施設13会場に分かれて多種のプログラムが組まれていました。一般演題や教育講演に加え17もある各種シンポジウムの一つとして「農業における健康問題」があり、小生もシンポジストとして参加しました。
このシンポジウムでは最初に私が、日本の農業を取り巻く情勢と農業者の現状を説明し、農業という職業に伴う健康障害と農村という環境に起因する保健上の阻害要因について「農業・農村における健康課題」というタイトルで講演を20分間行いました。次いで2人目の演者がハウス園芸農業における健康阻害要因を、3人目の演者は全国の農作業事故調査の結果概要から農業におけるリスクアセスメントの在り方について、4人目の演者は農業労働の安全衛生体制構築法の提案を主に農業では産業衛生ではなく職業衛生という観点が不可欠という主旨での講演がなされました。
産業衛生学会で「農業」が取り上げられたのは初めてとのことですが、それ自体は高く評価できるもののシンポジウム会場の参加者は数十名に過ぎず、加えてフロアからの質問も農業労働の特性が分かっていない質問が多く、この分野への関心の低さを痛感しました。
農業の特徴は、気象条件や地政学的条件に極めて大きく影響される作業の連続であることです。産業医学で培われた手法や得られた成果は、そのままでは農業に応用できないことは各演者が同意できましたが、ではどうするかという討論は時間切れでした。作業環境管理の困難さだけでなく、毎年のように襲う自然災害への対応もあります。また、同一規模同一栽培でも条件は年ごとに変化します。安全衛生対策の基本理念から構築し直す必要があるようです。
シンポジウムで強調し得なかったことに、農業者の労災補償問題があります。農業法人であれば一般労災が適用されます(事業主は対象外)が、本県の場合は自営農が殆どで全農業経営体数に対する法人数は1%未満です(全国でも1%を僅かに超える程度)。20年以上前の「全ての農業者に労災補償を」というILO勧告を受けて(日本は提案国です)、現在農業者が加入できる労災保険3種が整備されました。特定農作業従事者、指定農業機械従事者、中小事業従事者の3種で、これらを特別加入制度と呼んでいますが、その加入率は全国でも数%に満たず、鹿児島県はさらに低い状態です。加入率が極めて低い理由として加入条件が厳しいことと対象災害の範囲が狭いことが挙げられます。こうした状況から正確な労災発生件数を始めとして健康障害の実態が把握できない状況が続いています。
最近相次ぐ種々の労働対策は総じて農業者は想定されていないように感じられます。「働き方改革」がメディアを賑わしていますが、社会の根幹である食糧生産業を「無視」しての、産業活動から切り離された産業保健活動では、「碌な」成果を挙げられる状況ではないように強く感じました。