メールレター第188号
鹿児島産業保健総合支援センター メールレター第188号 2018/11/01
発行:鹿児島産業保健総合支援センター 所長 草野 健
相談員からのメッセージ
就労女性の婚姻状況とメンタルヘルス
産業保健相談員 山中隆夫
(担当分野:メンタルヘルス)
もう一昔前になるが、某病院に勤務するH師長とともに、そこの全職員を対象に,「婚姻状況と心身の健康」について調査したことがあるので、報告する(本文では詳細な数字データは省略する)。
【目的】
離別(離婚)状態で就労中の女性スタッフ(看護師)の精神保健の状態を比較・検討する。
【方法】
対象である男女全職員(約100人)を「未婚」、「既婚」、「離別(離婚)」の3群に分け、次の3項目の測定を行った。
(1) 心理テスト(表記式で不安や神経症の程度を測るもの)。
(2) 心理的な不安や緊張を表すとされる前額部(おでこ)の筋緊張度を筋電図(オートジェニック社
EMG-BF装置)を用いて測定し,3群間での差異をみた。
(3) 職場の定期健康診断結果(血圧、BMIに加えて末梢血液、脂質、血糖、尿酸などの血液生化学検査)
を3群間で比較した。
【結果】
・表記式による心理テストでは、3群間に何らの統計的差異も認めることはできなかった。
・筋電図検査では、女性群は男性群に比し、有意に筋緊張が、つまりは不安・緊張度が高かった。女性
スタッフだけの3群間の相互比較では、離別群は他群(未婚、既婚)に比し、有意(5%水準)に、具体
的には1.7倍ほど筋緊張度が高かった。
・定期健康診断結果の比較では、女性離別群は他群女性に比し、ストレスや生活習慣病と関連深いとさ
れる収縮期血圧と血液尿酸値が有意に高かった。
【まとめ】
今回の調査では、男性より女性、特に離別者が高い筋緊張度を示し、収縮期血圧や血液尿酸値でも有意な差が認められた。このように離婚歴のある女性看護師で不安・緊張が高かった事実は、彼女らが離別後は母一人で気強く育児を果たしながら、家庭を守り、一方で就労も頑張っている現実の姿と合致する。
しかし、このような高い不安・緊張の持続は疲労(さらには、うつ病)だけでなく、高血圧、高尿酸といった生活習慣病のリスクファクターまで招いてくるので、決して看過できる状態ではない。物言わぬ(言えぬ?)離別女性に対し、さらなる周囲からの理解と忖度、そして温かいサポートが必要となる所以である。
なお、今回の調査においては、心理テストと筋緊張との間に乖離(不一致)が生じていた。筋緊張度と異なり、心理テストでは何らの違い(異常)も検知することができなかったのである。
これは心理テストがYES 、NOで答える表記式であるために、被検者が結果を意図的に操作した可能性(例えば、「不都合だから、この質問はNOと書いておこう」というように)を否定できない。このことを更に敷衍するならば、産業保健の場面で、管理者が表記式アンケートで以って職員の心の核心部分に迫るには、問題の多いことを示唆している。今後、検討を要する事案であろう。
おすすめ教材(無料貸出し等)
当センターでは、産業保健に関する図書、ビデオ・DVDを無料にて閲覧・貸出ができます。
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この教材では、「手引き」に沿って、それぞれの段階でどの立場の人がどんな役割を受け持ち、スムーズな職場復帰と再発・再燃防止に努めればよいか、管理監督者の目線で紹介します。
研修セミナーのご案内
すべてのセミナーにどなたでもご参加いただけます。
(定員は各セミナー30名、場所は光健ボイスビルです)
11月
☆ 11月 5日(月) 14:00~16:00【冨宿先生】
「産業医になったらここをチェック」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
☆ 11月15日(木) 14:00~16:00 【黒沢先生】
「職場巡視と労働衛生管理」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
● 11月16日(金) 14:00~16:00【久留先生】
「メンタルヘルス・カウンセリングⅣ
「出社拒否」の心理支援(自我・自己の混乱、ハーディネス)」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
☆11月20日(火) 18:00~20:00【前田先生】
「生活習慣病と運動療法について」/THP対象
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
● 11月27日(火) 18:00~20:00【市来先生】
「歯科の視点からの禁煙指導について」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
12月
☆ 12月5日(水) 14:00~16:00【東先生】
「産業医として知っておくべき化学物質のリスクアセスメント(その1)
~SDSの読み方と数理モデル~」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
● 12月10日(月)14:00~16:00【冨宿先生】
「コンピュータ画面を見る労働者の健康管理」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
☆ 12月12日(水)14:00~16:00【長友先生】
「「働く人」における発達障害」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
☆ 12月13日(木) 14:00~16:00【赤崎先生】
「不安に悩む人の特徴と治療」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
● 12月15日(土) 14:00~16:00【徳留先生】
「結核の現状と施設内(院内)感染」
※会場:鹿児島市医師会館(鹿児島市加治屋町3-10)
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
☆ 12月17日(月) 18:00~20:00【堀内先生】
「職域における食と健康」
日医産業医認定単位:生涯(専門)2単位
● 12月21日(金)14:00~16:00 【德永先生】
「入浴による体のライフラインの強化法」/THP対象
日医産業医認定単位:生涯(実地)2単位
☆…産業医対象で、産業医認定単位があります。 ● …産業保健スタッフですが、産業医認定単位はあります。 |
【詳細・お申込み】
https://kagoshimas.johas.go.jp/information/h2335
※各研修会には定員があります。申し込みがないまま当日来られた場合、会場や資料の関係で受講できない場合がありますので必ず申し込みをしてください。受講できなくなった場合は必ずご連絡ください。
お知らせ
◆◆鹿児島産業保健総合支援センター情報◆◆
産業保健に関するご質問・ご相談を受け付けています。
当センターでは、メンタルヘルス対策や治療と仕事の両立支援対策をはじめ、産業保健に関する様々なご質問・ご相談を受け付けています。お気軽にご相談ください。
https://kagoshimas.johas.go.jp/about/otoiawase/contact.html
メンタルヘルス対策支援のご案内
従業員の心の健康対策への取組方法がわからないという事業場の皆さまへ私たちは、メンタルヘルス対策に取り組もうとする事業場を支援します。
https://kagoshimas.johas.go.jp/about/about_category/cat426
地域産業保健センターのご案内
労働者数50人未満の小規模事業場では、労働者に対する産業保健サービスを充実させることを目的に、地域産業保健センターが設けられています。
https://kagoshimas.johas.go.jp/about/about_category/cat638
治療と職業生活の両立支援事業
当センターでは、両立支援に関する各種支援を無料で提供しています。ぜひご活用ください。
https://kagoshimas.johas.go.jp/about/about_category/cat768
11月~1月の両立支援(出張)相談窓口
当センターでは、センター内の相談窓口のほかに、鹿児島医療センターと鹿児島大学病院に、治療と職業生活のための両立支援出張相談窓口を開設しています。設置状況は次のとおりです。
(1)鹿児島産業保健総合支援センター
相談窓口開設日時・・・平日 8:30~17:15
(2)国立病院機構 鹿児島医療センター がん相談支援センター内
相談窓口開設日時・・毎月第1・3火曜日 10時~13時
11月の相談日 → 6日(火)・20日(火)
12月の相談日 → 3日(火)・17日(火)
1月の相談日 → 15日(火)
(3)鹿児島大学病院 地域医療連携センター内
相談窓口開設日時・・毎月第3木曜日 10時~12時(事前予約が必要です)
11月の相談日 → 18日(木)
12月の相談日 → 20日(木)
1月の相談日 → 17日(木)
鹿児島産業保健総合支援センターの産業保健専門職(保健師)および両立支援促進員がそれぞれの医療機関のソーシャルワーカーなどと連携してご相談に応じます。相談は無料です。両立支援に関するお悩み等にについてご相談下さい。
【詳細】
▼両立支援出張相談窓口
https://kagoshimas.johas.go.jp/about/madoguchiitiran.pdf
▼鹿児島医療センター内(リーフレット)
https://kagoshimas.johas.go.jp/about/ryouritusien-iryousennta.pdf
▼鹿児島大学病院地域医療連携センター内(リーフレット)
https://kagoshimas.johas.go.jp/about/ryouritusien-kadaibyoin.pdf
▼鹿児島産業保健総合支援センター 相談窓口(リーフレット)
https://kagoshimas.johas.go.jp/about/ryouritusien-sanpo.pdf
◆◆◆労働者健康安全機構情報◆◆◆
平成30年度産業保健関係助成金のお知らせ(再掲)
https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1253/Default.aspx
◆◆◆厚生労働省情報◆◆◆
「平成30年版 労働経済の分析」結果
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01633.html
働き方改革関連法省令施行通達(9月7日施行)
【詳細】
▼働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法の施行について
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T180919K0010.pdf
▼働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働安全衛生法及びじん肺法の施行等について
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T180919K0020.pdf
▼働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の施行について
https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T180919K0030.pdf
職域における風しん対策について
【詳細】
▼風しん情報
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/
▼あなたの職場は風しん予防対策をしていますか?(リーフレット)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/dl/poster13.pdf
11月は「過労死等防止啓発月間」です
厚生労働省では、「過労死等防止啓発月間」の一環として「過重労働解消キャンペーン」を11月に実施し、長時間労働の削減等の過重労働解消に向けた取組を推進するため、使用者団体・労働組合への協力要請、リーフレットの配布などによる周知・啓発等の取組を集中的に実施します。
実施期間 平成30年11月1日(木)から11月30日(金)までの1か月間
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/roudoukijun/campaign.html
◆◆◆鹿児島労働局情報◆◆◆
平成30年の労働災害発生状況(H30.9月速報)
○ 死亡者数は7人で、前年同期で6人(46.2%)減。
○ 休業4日以上の死傷者数は1,299人で、前年同期で39人(3.1%)増。
https://jsite.mhlw.go.jp/kagoshima-roudoukyoku/content/contents/H30saigai_2018-1012-4.pdf
所長よりひと言
早いもので平成30年も残り2か月。平成の元号が使えるのも残り6か月、半年となりました。何時まで続くのかと思わせた酷暑の夏も台風等の未曽有とも言いたいような風水害の後、急速に朝晩の秋の気配濃厚となりました。元々鹿児島の春秋は短いものですが、その束の間の平成最後の秋をそれなりに楽しみたい気持ちはあるものの今秋も例年の如くというより例年にも増して各種イベントが目白押しです。
10月、11月は学会開催が集中する時期ですが、その他にも行政関係の行事や会合も多く開催されます。産業保健関連でも産保推進全国会議や全国安全衛生大会もさらに産業保健調査研究発表会もこの時期です。数年程前までは、できる限りこれらに出席しようと張り切り、東京日帰り出張も年数回以上などという生活をしていました。また学会等も週末を利用して秋季だけでも年数回以上参加し発表や座長司会等を務め全国各地に赴きました。数えてみれば47都道府県中訪れてない県は僅か3県のみになっています。尤もほとんどがとんぼ返りで観光地に足を運ぶ時間はないという出張でした(どういうわけか飲み屋街のみは結構足を運んでいますが・・・)。流石に昨今はそんな体力も気力も衰え最盛期の半分にも満たない出席です。
産業保健関連の各種の会では近年の情勢を反映してか、演題の幅が広く中心課題を絞り込めないほど多彩です。確かに、政府の産業保健関連政策もメンタルヘルスからストレスチェック、働き方改革の一環としての過重労働や昨今の両立支援まで、どれが重点かと問いたくなるほど多くの重点政策が掲げられています。それだけ今日の産業保健課題は多いということの証左です。表出された問題は多種多様で、現象面に対応している限りは取り組むべき課題は余りにも多く且つ難問ばかりです。
然しながら、多岐に亘る課題も根本は共通していると思います。今更ながら唯物史観用語を持ち出すのは若干気が引けますが、各問題に通底するのは「労働阻害」という語で表されるものと感じます。現に噴出している各種の問題は、産業保健分野に限らず世界経済の各種問題の根底にも通じるものと感じます。
労働の目的は「価値」の生産であり決して利潤の増大ではない筈ですが、その価値に対する観念が大きく変貌したのでしょうか。特に日本人はハタ(傍)をラク(楽)にすることに高い価値を置いてきた伝統を持っています。働くことがそのような伝統から乖離することは「労働阻害」以外ではあり得ないものと言えます。それともそのような伝統は既に失われつつあるのか、或いは失われてしまったのでしょうか。
今一度、医師として産業医として経済学、哲学、民俗学や社会学等社会科学系、人文科学系の勉強をし直す必要を痛感しています。古希を過ぎた一医師がそれらを勉強したとて何ほどのものがある、と言われそうですが、自分なりに「価値」や「労働」等について考えを整理したいと思う今日この頃です。