お知らせ

令和7年バックナンバー

高ストレス面接でパワハラの相談を受けたら

鹿児島産業保健総合支援センター 産業保健相談員
  小田原 努
(担当分野:産業医学)

現在、厚生労働省で「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」が開催されており、2024年11月に中間とりまとめが出されました。その中で、現在50名以上の事業所で義務化されているストレスチェックを50人未満の事業所にも拡大することが提案されています。そうなると50人未満の事業所の高ストレス面接は、地域産業保健センターを中心に対応していかざるを得ないかと思いますが、そもそも高ストレスの原因は職場にあることが多く、特に上司や先輩等の人間関係が元になっていることが多いものです。最近は産業医の認知度もかなり上昇し、産業医に何かを期待して面接を受ける方も増えていますので、きちんと対応しないと一気に産業医への信頼を失ってしまう事もあり、パワハラの訴えには適切に対応することが求められています。

まず、高ストレス面接を行う場合は、職場での人間関係は大丈夫かなという気持ちで臨みましょう。若い方は単刀直入にパワハラを受けていると訴えてくることが多いものですが、ある程度の年数を職場で過ごしてきた方は、今後の職場での立ち位置を考えて、直接的にパワハラを受けているとは言わないものです。指導がきついです等と、なんとなくぼかした感じで、訴えてこられるので、単刀直入に「それはパワハラだと思う?」と聞くのが良いと思います。パワハラではないけど、困っている場合も含めて、次に確認することは、相手が何を望んでいるかです。

1.話を聴いてくれるだけで良い。面接をしてくれる先生の胸の内に秘めておいてもらいたい。のか、2.きちんと注意して欲しい、やめさせてもらいたい。のか、3.謝ってもらいたい、処分してもらいたい。のか、4.訴えたい。のか、相手が求めていることを確認する必要があります。相手の望んでいるレベルを確認したら、本人の了解を得て、実施事務従事者や、日頃事業所の窓口になっている衛生管理者に伝えることになります。

ただ、よくあるのは、告げられた事業所の担当者がどう対応すれば良いのか分からない事です。中小企業の方は、パワハラの訴えはさほど経験されたことがないので、変に動いて、訴えた本人が辛い立場になることもあります。そこで、産業医としては、必要に応じ、上司を交えて本人と衛生管理者、産業医で面接を行い、上司に職場での状況を確認してもらい、必要であれば、行為者に注意してもらうようにアドバイスしましょう。会社の第三者となり得る衛生管理者を交えておくと、問題が曖昧になることを防げるものです。産業医としては、問題をきちんと職場に受け渡して、後は職場として適切に処理してもらうことを期待しましょう。また、相談者が辛い立場になることもありますので、経過面接をしておくことも大事だと思います。

令和7年2月 第884号 掲載
「産業保健の話題(第282回)」

労働安全衛生法に基づく健診項目の今後の変更について

鹿児島産業保健総合支援センター 産業保健相談員
  桶谷 薫
(担当分野:産業医学)

急速に進む高齢化や女性の就業率の増加に伴い、最新の医学的知見や社会情勢の変化等を踏まえ定期健康診断項目の変更点について検討し、令和6年度に結論を得るという内容を盛り込んだ規制改革実施計画が令和5年6月16日閣議にて決定されました。

この計画決定を踏まえて、厚労省では「労働安全衛生法に基づく一般健康診断の検査項目等に関する検討会」を複数回開催し、令和6年11月1日に検討結果の中間とりまとめを公表しました(検討会においては・業務起因性又は業務増悪性・検査の目的対象方法の明確性・検査の精度及び有効性・検査費用が事業者の許容内 ・事業者が健康情報の把握することの有益性等に着眼点をおき議論がおこなわれました)。

女性特有の健康課題に関する項目について
女性労働者本人への気づきを促し、必要な場合には婦人科医等の専門医への早期受診を勧奨すると共に、女性特有の健康課題に対する配慮について申し出を行いやすい職場づくりにもつながるように、一般健康診断問診票に女性特有の健康課題 (月経困難症、月経前症候群、更年期障害等)に係る質問を追加することが示されました。
質問案としては、
・女性特有の健康課題(月経困難症、月経前症候群、更年期障害など)で職場において困っていることがありますか。 ① はい、② いいえ、が出されています。

この質問に「①はい」と回答した労働者に対しては、必要に応じて女性特有の健康課題に関する情報提供や専門医への早期受診を促すことが適当であり、そのためのツールの作成や研修等も必要としています。 また質問に対する労働者の回答は、個別には健診機関から事業者に提供しないこととする一方で、望ましい職場環境の拡充等の観点から、女性特有の健康課題に係る質問における労働者の回答を集計した統計情報は、企業での取組みに活用することも可能としていく方向性が示されています。

男性の更年期障害について
男性の更年期障害については、自分の抱えている不調が更年期の症状であるという理解促進を促す方向で、問診とは別に検討をしていくこととなっています。

歯科に関する項目について
労働者の口腔の健康の保持・増進は重要ではあるものの、業務起因性又は業務増悪性、就業上の措置等のエビデンスが乏しいことを踏まえると、問診を含め、安衛法に基づく一般健康診断に歯科健診を追加することは困難として、歯と口の健康づくりに向けた口腔保健指導について、職場内で周知等の機会を捉えて強化していく方向となりました。

検討会では採血実施年齢拡大や眼底検査等様々な議論もおこなわれていましたが最終的には女性特有の健康課題の問診項目の追加の方向性が中間とりまとめで発表されました。

令和7年1月 第883号 掲載
「産業保健の話題(第281回)」