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令和3年 バックナンバー

歯周病と糖尿病は仲の良い兄弟

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
松下 幸誠 
(高見馬場歯科院長)
(担当分野:産業医学)

歯周病と糖尿病、一見、関係なさそうな2つの病気ですが、実はとても仲の良い兄弟です。糖尿病が強く疑われる人は約1,000 万人と推計されていて増える傾向にあり、国民病の一つにあげられます。また、歯周病は日本人の8割が患っていると言われるこれもまた、大きな国民病の一つです。歯周病は口の中の悪玉菌が原因の、歯を支える歯ぐきや土手の骨の慢性の炎症です。歯周病の慢性炎症で産出される悪玉ホルモンは、血糖を下げる働きをするインスリンというホルモンの働きを邪魔します。結果、高血糖となって体のタンパク質と結びつき最終糖化産物(AGEs エージーイー)が発生、血管がもろくなりあちこちの体を傷つけます。AGEs は「体のサビ」、「体の焦げ」とも表現される老化物質で、蓄積してお肌の「しわ」、「シミ」、「たるみ」の原因にもなり美容の大敵です。この状態は、血管病と言われる糖尿病の状態にそっくりであり、実際にお互いに悪い影響を与えあっていることが最近わかってきています。糖尿病も、歯ぐきの抵抗性を奪い、口のばい菌が活動しやすい状態にして歯周病を悪くします。また、生活習慣病の原因の一つ内臓脂肪からも歯周病の時産出される悪玉ホルモンと同じものが放出されて脂質の代謝にも相互に悪影響を与えることがわかっています。この慢性の炎症は、ケガや急病の時に起こる急性炎症と違い四六時中続く弱い炎症反応です。専門家によっては、炎症を火事に例えて、急性炎症を大火事、慢性炎症を「ぼや、くすぶり」、まわりにただよう悪玉ホルモンを「けむり」に例えています。

体はもともと自分で治す力を持っているので、歯周病治療のほぼ全部と言っていいほど歯と歯ぐきの境目(歯周ポケット)にたまったばい菌の集落(バイオフィルム)の除去が中心となります。毎日の欠かさないセルフケアと専門家によるプロフェッショナルケアが歯周病治療と予防には大切です。セルフケアと歯科医院でのプロフェッショナルケアによる炎症を抑える効果は、糖尿病治療薬1剤にも匹敵すると言われます。歯周病の治療と予防は、セルフケアが大前提となります。すなわち、毎日のお手入れです。また、普通のブラッシングだけでは足りないので、歯と歯の間のお手入れ(フロスや歯間ブラシ)もすごく大事です。お口からの糖尿病の改善、予防のアプローチとしてもブラッシングは重要です。食後にとにかく、口の中にまず、歯ブラシを突っ込むこと。歯磨き粉など使う必要はありません。歯磨き粉や洗口液は最後の仕上げにどうぞ。歯を磨いた後は、食べ物を口に入れる気はしません。これで、だらだら喰いや間食が防げてエネルギーの過剰摂取や糖質の過剰摂取を抑えることができます。また、お手入れや治療で歯の本数の維持につとめ、よく咀嚼できるお口の環境を整えることも大切です。食事は20 分以上かけてゆっくりとよく噛んでいただき、最初の5分は野菜から摂るようにしましょう。残りの時間で前半がおかず、後半にご飯などの炭水化物を加えて摂りましょう。こうすることで血糖値の急激な上昇(グルコーススパイク)を抑え、高血糖から血管を守ることができます。

毎日のセルフケアと定期的な歯科医院でのプロフェッショナルケアで、体の「くすぶり」を取り除き快適なお口の環境を維持して、幸せな食生活と人生を送りましょう。

鹿児島労基 令和3年3月号掲載

健康経営と働き方改革は一体推進で

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
德永 龍子 
(鹿児島純心女子大学 名誉教授)
(担当分野:保健指導)

 2014年、私は鹿児島労基紙面で健康経営の事を紹介した。健康経営は1980年アメリカの経営心理学者ロバート・ローゼンが提唱し、企業の持続的成長を図る観点から、従業員の健康を経営資源ととらえ、企業が健康増進に積極的に取り組む経営手法として始まった。2020年9月現在476大法人、中小規模4,815法人が優良法人に指定されている。健康経営の成果は、①従業員の健康管理、健康づくりの推進による医療費の節約 ②企業の生産性及び従業員の創造性の向上 ③企業のリスクマネジメントで経費圧縮 ④笑顔で頑張る社員が顧客満足度を上げ企業イメージの向上 ⑤従業員の余暇時間利用での地域貢献である。目的は従業員・会社・社会の幸せで、テレビ、ネット、新聞で紹介されている。

注目したのは、健康保険料率が全国4番目に高い(10.33%全国平均10%)全国健康保険協会熊本支部が、健康経営に取り組む全国初の連携組織「くまもと健康企業会」を設立したことである。同支部管内約1600社が2020年7月末時点で健康経営を宣言している。宣言企業の多くは従業員の運動習慣づけ、禁煙の推進、メンタルヘルス対策に取組んでいる。しかし企業から「自社だけでは具体的な健康増進のためのアイデアが浮かばない」「他社の好例を知りたい」などの声に押され、企業の先進事例を年3回共有する会を実施。目標は従業員の健康増進を後押して医療費節約による健康保険料率を下げ、企業や加入者の負担軽減を目指す。医療費の高額原因は、全国上位の人工透析患者数で食事と運動の改善を対策とする。先進例は、健康食品通信販売の「えがお」。管理栄養士が常駐する社員食堂で、朝・昼・夜の食事を提供する。併せて役員の1人を健康管理最高責任者(CHO)に充てるなど体制を整えた。同支部の斎藤和則支部長は「中小企業も健康経営で選別される時代になりつつある。新型コロナウイルスの感染が拡大している今だからこそ、健康経営の浸透が必要」と話している。(日経新聞2020. 8.12)

他の先進例は、経営陣・従業員が本気で取り組む全社的な意識・働き方・健康経営の改革が多い。

愛知県の三幸土木株式会社は、2015年の健診で40歳以上の社員の75%、役員全員が「メタボリックシンドローム及び予備軍」と診断された。始めたのが「体重記録と毎日プラス一皿の野菜摂取」の健康行動習慣化。社長、役員が先ず取り組み成果を上げ、社員に拡大し定着させた。他に成功報酬付きの「禁煙チャレンジ」、連続4日間の休暇取得推進「アニバーサリー休暇制度」等で5年連続優良表彰である。

社長ががんから得た体験を活用した株式会社マックス。休みたい時に休め、社員同士、家族同士が助け合い働き続けられる風土づくりは、社員の幸せ家族の幸せ、働ける喜びを追求する経営理念である。同社の取組の一つが「多能工化」で、4専門製造ラインを機械や新技術の活用で製造作業の軽量化、コンピュータ導入による工程のシステム化の推進である。「多能工化」は、異なる製造ラインの従業員が他の専門性を共有でき、効率的運用が可能となった。配置転換や休暇取得も容易となり転勤先の生産性向上や治療中の従業員の両立支援にも結びついた。(産業保健21.101号)

興味深いのは、福井県の現業交替勤務者の研究成果である。夜勤・交替勤務者でも食事時間を確保し3食とる群は肥満が少なく、欠食群は肥満が多い。他の夜勤・交替勤務者の研究では、肥満、糖尿病、脂質異常症、睡眠障害等が多い。この事は、体内時計が糖代謝に影響するという2017年ノーベル賞の内容、食事・睡眠・食事間隔は14時間、食事・食事の間隔は4時間が糖代謝に良い事で説明可能である。勤務時間帯に合わせ、勤務1時間前迄に食事、勤務3時間で食事休憩、仕事終了後に7分目の食事・睡眠・食事間隔は14時間となるように生活をシフトする。良い仕事と目覚めには、快眠衛生習慣が大事になる。起床後20分間光を網膜から入れ、覚醒と精神の安定物質セロトニン生成を促す。脳・身体には、ご飯。セロトニンの原料は蛋白質。がん・脂質異常症・糖尿病予防には野菜類が欠かせない。身体活動、労働、深呼吸でセロトニンが増え、夜には睡眠ホルモンメラトニンが増えて入浴後の良い睡眠に繋がる。逆に夜勤明けは日光を避けて帰宅し、食事・入浴後・部屋を暗くして休む。7時間の睡眠時間が、生活習慣病が少ない。満腹、2合以上の飲酒は消化器が働いているため途中覚醒、睡眠が浅くなる。

企業戦略は、先見の成長戦略にありか。コロナ禍で暫定的解禁のオンライン診療を継続すれば日本の医療水準は相当高くなり、働き方改革でのテレワークの定着、仕事のDXデジタル転換による成果評価のジョブ型雇用への切り替え等は労働者を守る組織への転換に繋がりうる。企業も戦略を可視化して、労使一体での健康経営と働き方改革推進の時である。

鹿児島労基 令和3年1月号掲載