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令和6年バックナンバー

「国民健康づくり計画「健康日本21(第3次)」について

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
前田 雅人
(担当分野:産業医学)

令和5年5月31日に厚生労働省は令和6(2024)年度から令和 17(2035)年度までの 12 年間の国民健康づくり計画「健康日本21(第3次)」について、4つの基本的な方向として、1.健康寿命の延伸と健康格差の縮小、2.個人の行動と健康状態の改善、3.社会環境の質の向上、4.ライフコースアプローチ(胎児期から高齢期に至るまでの人の生涯を経時的に捉える)を踏まえた健康づくりを掲げた。そして令和元年度に対する令和14年度の具体的な数値目標を公表した。主なものは以下の通りである。1)BMI18.5以上25未満(65歳以上はBMI20以上25未満)の者の割合を60.3%から66%に増やす、2)野菜摂取量(1日当たり)を281gから350gに増やす、3)果物摂取量(1日当たり)を99gから200gに増やす、4)食塩摂取量(1日当たり)を10.1gから7gに減らす、5)1日の歩数の平均値を6,278歩(20~64歳:男性7,864歩、女性6,685歩、65歳以上:男性5,396歩、女性4,656歩)から7,100歩(20~64歳:男性8,000歩、女性8,000歩、65歳以上:男性6,000歩、女性6,000歩)に増やす、6)運動習慣者(1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者)の割合を28.7%(20~64歳:男性23.5%、女性16.9% 65歳以上:男性41.9%、女性33.9%)から40%(20~64歳:男性30%、女性30% 65歳以上:男性50%、女性50%)に増やす、7)睡眠時間が十分に確保できる者(6~9時間、60歳以上は6~8時間)を54.5%(20~59歳53.2%、60歳以上55.8%)から60%(20~59歳60%、60歳以上60%)に増やす、8)喫煙率の減少(喫煙をやめたい者がやめる)(20歳以上の者の喫煙率16.7%から12%に減らす)、9)がんの年齢調整罹患率の減少、がんの年齢調整死亡率の減少、がん検診の受診率の向上、10)メタボリックシンドロームの該当者及び予備群の人数を約1,516万人から減らす、11)ロコモティブシンドロームの減少として、足腰に痛みのある人数(65歳以上、人口千人当たり)を232人から210人に減らす、といった多岐にわたる目標が立てられている。今後目標値に達成するため、様々な取り組みがなされると思うので、ぜひ国の施策を皆さんにご理解いただきたい。

そもそも「健康日本21」とは、1.壮年期死亡の減少、2.健康寿命を延伸、3.生活の質の向上を目指し、平成12(2000)年度から平成24(2012)年度まで、9分野(栄養・食生活、身体活動・運動、休養・こころの健康づくり、たばこ、アルコール、歯の健康、糖尿病、循環器病、がん)に具体的な数値目標を掲げ、取り組んだものである。

「健康日本21(第2次)」(平成25(2013)年度から令和4(2022)年度まで)では、目標値に8項目が達しており、具体的には、1)健康寿命の延伸(日常生活に制限のない期間の平均の延伸)(男性70.42年⇒72.68年、女性73.62年⇒75.38年)、2)75歳未満のがんの年齢調整死亡率の減少(10万人当たり)(84.3⇒70.0)、3)脳血管疾患・虚血性心疾患の年齢調整死亡率の減少(10万人当たり)(脳血管疾患:男性49.5⇒33.2、女性26.9⇒18.0 虚血性心疾患:男性37.0⇒27.8、女性15.3⇒9.3)、4)血糖コントロール指標におけるコントロール不良者(HbA1cがJDS値8.0%(NGSP値 8.4%)以上の者)の割合の減少(1.2%⇒0.94%)、5)小児人口10万人当たりの小児科医・児童精神科医の割合の増加(小児科医94.4⇒112.4、児童精神科医10.5⇒17.3)、6)認知症サポーター数の増加(330万人⇒1264万人)、7)低栄養傾向(BMI20以下)の高齢者の割合の増加の抑制(17.4%⇒16.8%)、8)共食の増加(食事を1人で食べる子どもの割合の減少)(小学生の朝食15.3%⇒12.1%、中学生の朝食33.7%⇒28.8%、小学生の夕食2.2%⇒1.6%、中学生の夕食6.0%⇒4.3%)、などに成果がみられた。

3年以上にわたるコロナ禍にあって、多くの人々の行動制限がなされていたが、活動範囲が広がりつつある今、個人はもとより、自治体、大学、企業や民間団体などが協力し、連携しあい、より効果的な健康づくり施策「健康日本21(第3次)」が展開できればと願う。

鹿児島労基 令和6年3月号掲載

職場とハラスメント

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
長友 医継
(医療法人 玉水会病院)
(担当分野:メンタルヘルス)

 2020(令和2)年6月から改正労働施策総合推進法が施行され、2022(令和4)年4月からはパワーハラスメント(パワハラ)防止措置が中小企業でも義務化されました。これで、3大ハラスメントといわれるパワハラ、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントの全てで対策をとることが義務化されたことになります。なお、法令や国の指針などでは、マタニティハラスメント、パタニティハラスメント、ケアハラスメントの3つを「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」と総称しています。

そして、職場におけるハラスメントの防止のために、法及び指針で事業主や「働く人」に対して、主に以下の事項について努めることとする責務規定が定められました。

1.事業主の責務
(1)職場におけるハラスメントを行ってはならないこと、職場におけるハラスメントに起因する問題に対する自社の「働く人」の関心と理解を深めること
(2)自社の「働く人」が取引先などの他の事業主が雇用する「働く人」や求職者も含めた他の「働く人」に対する言動に必要な注意を払うよう、研修その他の必要な配慮をすること
(3)事業主自身(法人の場合はその役員)が、ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、「働く人」に対する言動に必要な注意を払うこと

2.「働く人」の責務
(1) ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、他の「働く人」に対する言動に必要な注意を払うこと
(2)事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること

ハラスメントは過剰ストレスの一つですが、最近、仕事によるストレスが関係した精神障害に対する労災請求が増えてきており、その認定を迅速に行うことが求められています。精神障害の労災認定要件は以下のようです。

1.認定基準の対象となる精神障害を発病していること
2.認定基準の対象となる精神障害の発症前おむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
3.業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

改正労働施策総合推進法によりパワハラの定義が法律上規定されたことなどを踏まえ、精神障害の労災認定基準に「パワハラ」が明示されました。そして上記の労災認定要件にある「心理的負荷」を評価する「業務による心理的負荷評価表」の「出来事の類型」には、事故や災害の体験、仕事の失敗・過重な責任の発生、仕事の量・質および役割・地位の変化等の4項目に加え、「パワハラ」と「対人関係」が追加されました。

「パワハラ」と「対人関係」の具体的な出来事やその強度などは以下のようです。

1.パワハラ
(1)具体的な出来事とその強度
・上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワハラを受けた。
・強度Ⅲ

(2)心理的負荷の総合評価の基準
・指導・叱責等の言動に至る経緯や状況
・身体的攻撃、精神的攻撃等の内容、程度等
・反復・継続など執拗性の状況
・就業環境を害する程度
・会社の対応の有無及び内容、改善の状況

(3)心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例
・上司等による身体的攻撃、精神的攻撃等が「強」の程度に至らない場合、心理的負荷の総合評価の視点を踏まえて「弱」又は「中」と評価する。

2.対人関係
(1)具体的な出来事とその強度
・同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた。
・強度Ⅲ

(2)心理的負荷の総合評価の基準
・暴行又はいじめ・嫌がらせの内容・程度等
・反復・継続など執拗性の状況
・会社の対応の有無及び内容、改善の状況

(3)心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例
・同僚等による暴行又はいじめ・嫌がらせが「強」の程度に至らない場合、心理的負荷の総合評価の視点を踏まえて「弱」又は「中」と評価する。

このような労災問題が発生しないように、上記の責務規定を事業主や「働く人」が守ることが求められます。

鹿児島労基 令和6年1月号掲載