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令和7年バックナンバー

労働災害の予防〜体力面からのアプローチ〜

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
髙司 佳代
(担当分野:運動指導)

厚生労働省の調査によると、令和5年の労働災害の4分の1は転倒であり業種別に見た場合も転倒が上位に位置しています。
(発生状況を性別・年齢別に見ると60歳以上女性が30%、50歳以上女性が18%となり半数を50歳以上女性が占めています。)
転倒対策として整理整頓や段差の見える化、コード類の引き回しのルール設定など環境整理は進んでいます。制度や環境は整ってきた一方で平均年齢が上がっている労働者の体力面へのアプローチはどうでしょうか。今回はそういった視点から転倒予防に向けた対策をご提案します。

体力年齢は個人差が大きく環境や生活習慣が影響します。健康診断が毎年行われるのに対し、体力測定を受ける機会は少ないのではないでしょうか。気づかないうちに身体能力が低下し、運動の必要性は理解しつつも運動時間の確保が難しいと感じたり、何をして良いかわからないという状況がみられます。

しかし体の状態に気づき対処することができれば転倒予防は十分可能であり、簡単な体力チェック項目を選択し定期的にチェックすることで変化を実感できるものです。
体力低下への対策として、定期的な運動を促す仕掛けや健康情報を提供することによる健康リテラシーの向上などが考えられます。

まずは自分自身の体力レベルを知ることで運動の必要性への認識が高まり、継続的な支援があると体の変化を把握しやすくモチベーションの維持、向上につながるものと考えます。腰痛予防の観点から前屈改善を、筋力向上の観点からスクワットをご紹介します。
どちらも道具を使わず短時間で行えるため取り組みの一歩としてお勧めします。

前屈は柔軟性チェックの代表的な種目です。怪我予防やしなやかな動き作りに活用しましょう。
こぶし(グー)が床に着くのを目安にしてください。
スクワットは下半身強化の代表的な種目です。椅子を使い座るつもりで座らない、これをゆっくりと繰り返すことで下半身強化になります。10回を目安に行いましょう。
筋力トレーニングにおいては体力の向上だけにとどまらず、筋肉に負荷をかけることによるホルモンの分泌により集中力の向上やストレス解消、睡眠の質向上などさまざまな効用が明らかになっています。

本人の意思を頼りにした個人での取り組みは継続が難しいものです。勤務時間内に体を動かす時間を設定し上司が進んで行うなど健康意識を高める雰囲気作りが推奨されます。
部署対抗など運動成果をゲーム感覚で競ったり、仲間と楽しく運動できるイベントに参加するなど自然と体を動かす機会が増える仕掛けや環境作りも体力作りのきっかけとして効果的でしょう。
義務感や強制されて行うのではなく、運動をすることにより体が楽になる、集中力が向上するといったプラス効果を感じることで能動的に行えるようになります。こういった行動変容を促していくことが重要であり簡単なサポートで達成可能なことであると考えます。従業員の心と体の健康があってこそ生産性も上がり事業所の利益につながることでしょう。

鹿児島労基 令和7年1月号掲載