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令和3年 バックナンバー

職場関係の最新コロナ情報を入手する方法

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
冨宿 明子
(労働衛生コンサルタント)
(担当分野:産業医学)

鹿児島県内のとある事業場の衛生管理者、衛生くん。
最新のコロナ情報をゲットすべくネットサーフィンをしていますが、思うような情報が手に入らないようです。

衛 生; 先生!なんか「ここさえ見ておけば、職場関係の最新コロナ情報をゲットできる」みたいなサイトってないですか? 部長は、怪しいサイトもあるから厚労省のサイトだけを見ておけばいい、なんて言うんですけど、厚労省のホームページを見てみても複雑すぎて迷子になっちゃうし、僕らが欲しい「職場関係の」最新コロナ情報とは違う感じがするんですよね。

産業医; 分かるわあ。厚労省のトップページから攻めていくのは、私も無理だわ。そうじゃなくて、「新型コロナウイルスに関するQ&A 企業の方向け」って検索エンジンに打ち込んでみて。これで最初に上がってくるサイト、厚労省が作ったものなんだけど、労務についてのQ&Aが書かれているよ。例えば、雇用助成金とか特例措置とかってどういうこと?(3の問1・2に載っています)とか、医療関係者ではない労働者でもコロナに感染した時に労災となるのか(7の問3)とか。

衛 生; ほうほう、なるほど。僕みたいな総務にいる衛生管理者にピッタリですね。これもいいけど、労働者目線からのQ&Aっていうのもあれば嬉しいんですけど。

産業医;あるよ。「新型コロナウイルスに関するQ&A 労働者の方向け」で検索してみて。

衛 生;カタカタ…おーっ、いいっすね! お気に入りに入れときます!

産業医;他にもお勧めサイトを紹介するね。「OHサポート コロナ」で検索してみて。

衛 生; はーい。カタカタ…ん? 先生、これって民間の会社のサイトですよ? この紙面で紹介しちゃっていいんですか?(小声)

産業医; …って思うでしょ? いいのよ。OHサポート株式会社っていう、産業医の今井 鉄平先生の会社のホームページの一部なんだけど、よくコロナのニュースに出てくる厚生労働省新型コロナウイルス対策本部クラスター対策班の和田 耕治先生もこのページをサポートしていて、「本情報は著作権フリーとしておりますので、お知り合いの経営者・総務担当者にもぜひ拡散を頂けると幸いです」って書いてあるのよ。だから大丈夫。ありがたいねえ。

衛 生; そうなんですね! 安心しました。へえー、コロナに関する解説が、50個以上も並んでいますね。社員の同居者が濃厚接触した場合の対応とか、海外駐在者の新型コロナワクチン接種とか、至れり尽くせりですね。しかも、ほとんどの項目に動画解説がついているじゃないですか! どれもそんなに長くなくていいですね。…でも待てよ。こことか、鹿児島県には当てはまらないことが書いてありますね。企業内の濃厚接触者を保健所じゃなくて企業で決める、とか。鹿児島県に特化した職場関係の最新コロナ情報ってないんですか?

産業医; あるのよ~。鹿児島県労働基準協会のヘルスサポートセンター鹿児島のトップページの「うわさの健康情報」っていうバナーをクリックしてみて。衛生委員会での衛生講話をワード1ページで毎月提供するっていうコンセプトで、私が書いているのよ。ここ1年以上はコロナ関連のテーマで書いているから、是非、読んでね。

衛 生;宣伝!

鹿児島労基 令和3年11月号掲載

両立支援の仕組み:トライアングル型支援

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
堀内 正久
(鹿児島大学衛生学・健康増進医学 教授)
(担当分野:産業医学)

厚生労働省では、出産・育児や介護、治療と働くことの両立支援が重要な施策となっています。出産・育児と介護に関しては、働くことが障害されているといった状況であり、対象者が働けるように様々な社会的支援がなされているかと思います。一方、治療については少し状況が異なり、病気になれば治療に専念するといった考え方もあり、働くことがすべての人にとって優先されるものではないかもしれません。ただ、現在では、悪性疾患をはじめとする慢性のやや重たい疾患であっても、働くことを優先する勤労者も増えており、それを支える社会的仕組みが求められています。平成29年、各都道府県労働局に地域両立支援推進チームが設置され、産業保健総合支援センターが関与しています。この地域両立支援推進チームは、各種産業保健に関連する団体の委員とともに、地域の状況に即した団体の参加を認めています。鹿児島県では、他の地域と異なり、県薬剤師会と労働衛生コンサルタント会が平成30年から参加しています。現在の治療の多くは、薬物治療であることから、医学的に対象者を支えることが薬剤師の皆様に期待されることかと思います。

両立支援の仕組みとしては、両立支援コーディネーターが対象者に寄り添うことが求められています。大企業では、企業に産業保健スタッフがおられますので、この方々が両立支援コーディネーターとして、医療機関とのやり取りをし、両立支援が可能と考えられます。しかし、鹿児島のような地方においては、職場側の産業保健活動は低調な場合も多く、むしろ、職場や医療機関以外の第3の場として両立支援コーディネーターが存在しても良いのではと考えます。鹿児島においては、保険薬局の薬剤師で両立支援コーディネーター資格を取得される方が増えています。50人未満の事業所であれば、衛生推進者と職場近くの保険薬局の両立支援コーディネーターが連携して、治療と仕事の両立支援を進めるといった構図も将来的には考えられます。両立支援は下図のような「両立支援のトライアングル型支援」が理想とされます。両立支援コーディネーターが窓口になって、産業保健総合支援センターに在中の両立支援促進員(産業カウンセラーや保健師、社労士)が実務を担当することが可能になるかと思います。一方、事業所規模に依らず、職場においては、あらかじめ、「両立支援」の準備として、衛生推進者や衛生管理者が両立支援コーディネーター資格を取得することを厚生労働省も勧めています。実際、厚生労働省としては、両立支援コーディネーターの配置と両立支援制度を導入した企業に助成金を支給する仕組みがあります(治療と仕事の両立支援助成金:環境整備コース、1事業所に20万円)。いずれにしても、鹿児島で働く人の状況に応じた両立支援の仕組みを考えていく必要があります。本記述を読んで、両立支援のための準備を考えている事業主の方は、鹿児島産業保健総合支援センターにご一報ください。TEL:099-252-8002 FAX:099-252-8003

鹿児島の産業保健に関わる多くの皆様が知恵を出し合い、この両立支援の制度が実際に多くの働く人の健康を守ることにつながりますことを願っています。

鹿児島労基 令和3年9月号掲載

新型コロナウイルス感染症と結核統計

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
徳留 修身 
(産業医、元・鹿児島市保健所長、元・結核研究所疫学科長)
(担当分野:産業医学)

 昨年初めからわが国でも感染が広がっている新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」と略)はすでに国内で1万人以上、世界では300万人以上の生命を奪っている。有効な予防や治療の恩恵を受けることなく犠牲になることは悲劇であろう。一方、新型コロナの蔓延に伴い人々の感染予防の意識や行動が改善し他の感染症の発生が減少するという推定も成り立つ。しかし緊急事態における各種の制限が受診行動の抑制や自粛をもたらしているのであれば、発生件数の減少は報告件数の減少による「見かけの改善」の可能性がある。結核における「受診の遅れ」は重症化につながる問題となる。

2020年(令和2年)の全国の結核新登録患者数速報値(年間、月別)が公表されている。速報値は報告数であり、確定値は通常翌年秋に公表される。新型コロナの蔓延が始まったことと結核の患者発生数(報告数)との関連について検討してみた。その結果、対前年比や前年同月比は著しく低い値を示した。

全国の結核登録数は減少傾向が続いており2016 ~ 2019年は前年比4~7%の減少が続いた。ところが2020年の報告数は前年比14%の減少となっており、確定すると例外的な値となる。前年同月比でも2020年はすべての月で前年を下回っており、特に4月と7月は30%以上の減少を示している。罹患率すなわち「人口10万
に対する結核登録数」は2016年以降13.9、13.3、12.3、11.5と低下したが、2020年の速報値は一気に10を下回り9.9となっている。これが確定するならばわが国は結核の「低蔓延国」に初めて仲間入りすることになる。このような2020年の結核の登録数の特徴について考察してみたい。(なお、2021年1~3月の速報値では前年同月比がそれぞれ27%、12%、7%の減少となっている。)

まず新型コロナ対策として「3密」を避けることやマスクの着用などの予防活動が副次効果として感染を防いでいるという見方は急性感染症には成り立つ可能性があるが、これを結核に当てはめるには無理がある。結核では感染から発病まで概ね6か月以上2年程度(その後は減少)の期間があり、しかも発病から受診、診断確定、保健所への届出まで過剰な時間を要する例があるため、感染予防活動の強化がその年の結核の統計に与える影響は限定的であろう。

ここで結核における受診や診断の遅れについて定義を紹介する。症状(咳や痰)の出現から受診までに2ヵ月以上を要した例は「受診の遅れ(Patientʼs Delay)」と区分され、労働者の年齢層に該当例が多い傾向がある。受診から診断までに1ヵ月以上を要した例は「診断の遅れ(Doctorʼs Delay)」と区分され、皮肉なことに労
働者の年齢層での該当例は比較的少ない。受診が遅れて重症化しているため早く診断されやすいことによる。症状出現から診断までに3ヵ月以上を要した例は「発見の遅れ(Total Delay)」とされ、労働者の年齢層に該当例が多い。受診や発見の遅れは重症化と感染拡大のリスクを高めるため、啓発の強化と受診しやすい労働環境の整備は産業保健における課題の一つであろう。

コロナ禍で結核の統計に現れた特徴が「受診の遅れ」や「受診の自粛または制限」による見かけ上の改善ならば、楽観はできないと思われる。結核に限らず各種の保健統計にコロナ禍によるバイアスがかかっている可能性があるためその解釈には注意を払う必要がある。

鹿児島労基 令和3年7月号掲載

新型コロナウイルス感染症~職場で注意すること

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
小田原 努 
(担当分野:産業医学)

初夏の訪れとともに、また熱中症に注意する季節になってまいりました。今年は新型コロナウイルス感染症のために、おそらく新人の方への盛大な歓迎会もなく、5月の連休も移動もままならず、季節の節目を感じる機会が少なくなってきていると思います。しかし、季節は確実に移ろっていきます。熱中症の対策は十分にお願いします。

新型コロナウイルスのワクチンの接種も始まってはいますが、多くの人が接種し終わるには数か月はかかるとされ、まだまだ従来の感染症対策の継続が必要とされると思います。

職場で、新型コロナウイルス感染症の陽性者が出た場合、濃厚接触者がどの程度まで広がるのかが大きな問題となると思いますが、大きく5つの場面が想定されます。

  1. 密接な作業場所での業務
    デスクワークがすぐ思い浮かびますが、隣の方との距離が短い場合は、濃厚接触の可能性が高いと思います。隣や前の方との距離が1.5メートル以内の場合は、アクリル板等を用いたパーテションの設置は必要そうです。パーテションを設置しても、マスクの着用やこまめな消毒、特にパーテションの清掃は適時行ってください。また今後は冷房のために、換気がおろそかになると思いますので、注意が必要です。
  2. 会議
    会議も密になり、議論が白熱すると感染のリスクが高まります。一つの長机には一人のみ着席するようにし、ドアと窓を開けて、換気するようにしましょう。窓がない場合は、サーキュレーター等を入り口に設置して、室内の空気の入れ替えを図ることが有効です。会議も短時間で、できれば30分以内で終わるように工夫しましょう。
  3. 昼食の機会
    食事の時はマスクをはずしますので、注意が必要です。食事時はあまりしゃべらないようにし、食事が終わったらすぐマスクを着用するようにしましょう。歯磨きをするときも、共有の水道栓には注意が必要です。
  4. 喫煙場所
    喫煙時もマスクをはずしますので、注意が必要です。手を洗ってからタバコは吸うようにしましょう。また室内の喫煙室を利用する場合は、密にならないように人数制限することも有効です。
  5. 自動車での移動
    複数の人数で車移動する時も注意が必要です。時折窓を開けて換気をするようにしましょう。また車内でもマスクは外さないように注意しましょう。

濃厚接触者を特定する時には、コロナ陽性となった方の陽性判定日から2週間前の行動を知る必要があります。スケジュールを管理する手帳などに会った方を控えておくなどの注意も必要となります。

コロナ陽性になりますと、周囲や家族の方にも大きな心労をおかけいたしますので、やはり今後もしばらくは、感染リスクのある行為は控えることが必要そうです。

鹿児島労基 令和3年5月号掲載

歯周病と糖尿病は仲の良い兄弟

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
松下 幸誠 
(高見馬場歯科院長)
(担当分野:産業医学)

歯周病と糖尿病、一見、関係なさそうな2つの病気ですが、実はとても仲の良い兄弟です。糖尿病が強く疑われる人は約1,000 万人と推計されていて増える傾向にあり、国民病の一つにあげられます。また、歯周病は日本人の8割が患っていると言われるこれもまた、大きな国民病の一つです。歯周病は口の中の悪玉菌が原因の、歯を支える歯ぐきや土手の骨の慢性の炎症です。歯周病の慢性炎症で産出される悪玉ホルモンは、血糖を下げる働きをするインスリンというホルモンの働きを邪魔します。結果、高血糖となって体のタンパク質と結びつき最終糖化産物(AGEs エージーイー)が発生、血管がもろくなりあちこちの体を傷つけます。AGEs は「体のサビ」、「体の焦げ」とも表現される老化物質で、蓄積してお肌の「しわ」、「シミ」、「たるみ」の原因にもなり美容の大敵です。この状態は、血管病と言われる糖尿病の状態にそっくりであり、実際にお互いに悪い影響を与えあっていることが最近わかってきています。糖尿病も、歯ぐきの抵抗性を奪い、口のばい菌が活動しやすい状態にして歯周病を悪くします。また、生活習慣病の原因の一つ内臓脂肪からも歯周病の時産出される悪玉ホルモンと同じものが放出されて脂質の代謝にも相互に悪影響を与えることがわかっています。この慢性の炎症は、ケガや急病の時に起こる急性炎症と違い四六時中続く弱い炎症反応です。専門家によっては、炎症を火事に例えて、急性炎症を大火事、慢性炎症を「ぼや、くすぶり」、まわりにただよう悪玉ホルモンを「けむり」に例えています。

体はもともと自分で治す力を持っているので、歯周病治療のほぼ全部と言っていいほど歯と歯ぐきの境目(歯周ポケット)にたまったばい菌の集落(バイオフィルム)の除去が中心となります。毎日の欠かさないセルフケアと専門家によるプロフェッショナルケアが歯周病治療と予防には大切です。セルフケアと歯科医院でのプロフェッショナルケアによる炎症を抑える効果は、糖尿病治療薬1剤にも匹敵すると言われます。歯周病の治療と予防は、セルフケアが大前提となります。すなわち、毎日のお手入れです。また、普通のブラッシングだけでは足りないので、歯と歯の間のお手入れ(フロスや歯間ブラシ)もすごく大事です。お口からの糖尿病の改善、予防のアプローチとしてもブラッシングは重要です。食後にとにかく、口の中にまず、歯ブラシを突っ込むこと。歯磨き粉など使う必要はありません。歯磨き粉や洗口液は最後の仕上げにどうぞ。歯を磨いた後は、食べ物を口に入れる気はしません。これで、だらだら喰いや間食が防げてエネルギーの過剰摂取や糖質の過剰摂取を抑えることができます。また、お手入れや治療で歯の本数の維持につとめ、よく咀嚼できるお口の環境を整えることも大切です。食事は20 分以上かけてゆっくりとよく噛んでいただき、最初の5分は野菜から摂るようにしましょう。残りの時間で前半がおかず、後半にご飯などの炭水化物を加えて摂りましょう。こうすることで血糖値の急激な上昇(グルコーススパイク)を抑え、高血糖から血管を守ることができます。

毎日のセルフケアと定期的な歯科医院でのプロフェッショナルケアで、体の「くすぶり」を取り除き快適なお口の環境を維持して、幸せな食生活と人生を送りましょう。

鹿児島労基 令和3年3月号掲載

健康経営と働き方改革は一体推進で

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
德永 龍子 
(鹿児島純心女子大学 名誉教授)
(担当分野:保健指導)

 2014年、私は鹿児島労基紙面で健康経営の事を紹介した。健康経営は1980年アメリカの経営心理学者ロバート・ローゼンが提唱し、企業の持続的成長を図る観点から、従業員の健康を経営資源ととらえ、企業が健康増進に積極的に取り組む経営手法として始まった。2020年9月現在476大法人、中小規模4,815法人が優良法人に指定されている。健康経営の成果は、①従業員の健康管理、健康づくりの推進による医療費の節約 ②企業の生産性及び従業員の創造性の向上 ③企業のリスクマネジメントで経費圧縮 ④笑顔で頑張る社員が顧客満足度を上げ企業イメージの向上 ⑤従業員の余暇時間利用での地域貢献である。目的は従業員・会社・社会の幸せで、テレビ、ネット、新聞で紹介されている。

注目したのは、健康保険料率が全国4番目に高い(10.33%全国平均10%)全国健康保険協会熊本支部が、健康経営に取り組む全国初の連携組織「くまもと健康企業会」を設立したことである。同支部管内約1600社が2020年7月末時点で健康経営を宣言している。宣言企業の多くは従業員の運動習慣づけ、禁煙の推進、メンタルヘルス対策に取組んでいる。しかし企業から「自社だけでは具体的な健康増進のためのアイデアが浮かばない」「他社の好例を知りたい」などの声に押され、企業の先進事例を年3回共有する会を実施。目標は従業員の健康増進を後押して医療費節約による健康保険料率を下げ、企業や加入者の負担軽減を目指す。医療費の高額原因は、全国上位の人工透析患者数で食事と運動の改善を対策とする。先進例は、健康食品通信販売の「えがお」。管理栄養士が常駐する社員食堂で、朝・昼・夜の食事を提供する。併せて役員の1人を健康管理最高責任者(CHO)に充てるなど体制を整えた。同支部の斎藤和則支部長は「中小企業も健康経営で選別される時代になりつつある。新型コロナウイルスの感染が拡大している今だからこそ、健康経営の浸透が必要」と話している。(日経新聞2020. 8.12)

他の先進例は、経営陣・従業員が本気で取り組む全社的な意識・働き方・健康経営の改革が多い。

愛知県の三幸土木株式会社は、2015年の健診で40歳以上の社員の75%、役員全員が「メタボリックシンドローム及び予備軍」と診断された。始めたのが「体重記録と毎日プラス一皿の野菜摂取」の健康行動習慣化。社長、役員が先ず取り組み成果を上げ、社員に拡大し定着させた。他に成功報酬付きの「禁煙チャレンジ」、連続4日間の休暇取得推進「アニバーサリー休暇制度」等で5年連続優良表彰である。

社長ががんから得た体験を活用した株式会社マックス。休みたい時に休め、社員同士、家族同士が助け合い働き続けられる風土づくりは、社員の幸せ家族の幸せ、働ける喜びを追求する経営理念である。同社の取組の一つが「多能工化」で、4専門製造ラインを機械や新技術の活用で製造作業の軽量化、コンピュータ導入による工程のシステム化の推進である。「多能工化」は、異なる製造ラインの従業員が他の専門性を共有でき、効率的運用が可能となった。配置転換や休暇取得も容易となり転勤先の生産性向上や治療中の従業員の両立支援にも結びついた。(産業保健21.101号)

興味深いのは、福井県の現業交替勤務者の研究成果である。夜勤・交替勤務者でも食事時間を確保し3食とる群は肥満が少なく、欠食群は肥満が多い。他の夜勤・交替勤務者の研究では、肥満、糖尿病、脂質異常症、睡眠障害等が多い。この事は、体内時計が糖代謝に影響するという2017年ノーベル賞の内容、食事・睡眠・食事間隔は14時間、食事・食事の間隔は4時間が糖代謝に良い事で説明可能である。勤務時間帯に合わせ、勤務1時間前迄に食事、勤務3時間で食事休憩、仕事終了後に7分目の食事・睡眠・食事間隔は14時間となるように生活をシフトする。良い仕事と目覚めには、快眠衛生習慣が大事になる。起床後20分間光を網膜から入れ、覚醒と精神の安定物質セロトニン生成を促す。脳・身体には、ご飯。セロトニンの原料は蛋白質。がん・脂質異常症・糖尿病予防には野菜類が欠かせない。身体活動、労働、深呼吸でセロトニンが増え、夜には睡眠ホルモンメラトニンが増えて入浴後の良い睡眠に繋がる。逆に夜勤明けは日光を避けて帰宅し、食事・入浴後・部屋を暗くして休む。7時間の睡眠時間が、生活習慣病が少ない。満腹、2合以上の飲酒は消化器が働いているため途中覚醒、睡眠が浅くなる。

企業戦略は、先見の成長戦略にありか。コロナ禍で暫定的解禁のオンライン診療を継続すれば日本の医療水準は相当高くなり、働き方改革でのテレワークの定着、仕事のDXデジタル転換による成果評価のジョブ型雇用への切り替え等は労働者を守る組織への転換に繋がりうる。企業も戦略を可視化して、労使一体での健康経営と働き方改革推進の時である。

鹿児島労基 令和3年1月号掲載