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25年 バックナンバー

リスクアセスメントの継続と安全衛生配慮義務の遂行

基幹相談員 黒沢 郁夫
(担当分野:労働衛生工学)

 労働安全衛生法の改正により、平成18年4月1日以降、リスクアセスメントの実施が事業者の努力義務となり、現在は多くの事業所で実施されています。
  リスクアセスメントは、事業所内に潜む危険有害要因を洗い出し、 それらのリスクの大きさを見積もり、評価することで、安全衛生対策の優先順位が決定され、順次、リスクの除去、低減を実施して、労働災害を未然に防ぐための手法です。又、リスクアセスメントは、現場の作業者の参加を得て、管理者・監督者とともに進めるため、職場全体で共通の認識を持つことができ、安全意識の向上が期待されます。

  従来の労働災害防止対策は、発生した労働災害の原因を調査し、類似災害の再発防止対策を確立して、各職場に徹底していく手法が基本でした。ただこれでは災害を未然に防止することになりません。災害が発生していない職場であっても、潜在的な危険性や有害性は存在していて、いつかは労働災害が発生する可能性があります。当事業所内ではこれまでに労働災害は発生したことがないからと言って、明日の保証はありません。
  災害を防止するための手法には、リスクアセスメント以外に手法が導入されています。リスクアセスメントの利点は、職場に潜む危険有害性を災害が発生する前に予測して対策を実施するもので、先取りで組織的な活動です。

  リスクアセスメントの活動は、リスクアセスメント指針「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」により展開されています。特にリスクアセスメントの実施時期について注目すべきです。実施時期について指針では①建設物を設置し、移転し、変更し、又は解体するとき②設備を新規に採用し、又は変更するとき ③原材料を新規に採用し、又は変更するとき④作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更するとき ⑤その他、労働災害が発生した場合となっています。
  リスクアセスメントは先ずは実施することが原則です。その後、変更のあった時に実施することになりますが、現実的に捉えて、事業所内の一部分を優先的にリスクアセスメントの取り組みを実施した後、残りの工程についても実施していくのが望まれます。なぜならば、潜在的な危険有害要因はリスクの大小はありますが、全ての作業場で存在していると捉え、それぞれの作業場に潜む危険有害要因を明らかにすることで、職場関係者の危険に対する感受性を更に向上させることができるからです。すでに一度実施した作業場についても、一定の期間を置いた後、改善対策を含めて継続してリスクアセスメントの実施が望まれます。更に、そもそも危険に対する感受性は、個人の判断に委ねられている限り、リスクアセスメントの継続は有効な手段でもあります。
  ところで、企業の安全配慮義務とリスクアセスメント活動は、相互に関係しています。労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています。これは労働災害発生の危険を予測して、その危険を回避するために、安全対策を講ずる義務があると捉えることができます。

  安全衛生配慮義務の具体的な内容には次の例があります。設備・作業環境面の義務と、人的措置の義務があります。まず設備・作業環境面の義務は①施設、機械設備の安全化・作業環境の改善対策を講ずる義務②安全な機械設備、原材料を選択する義務 ③機械等に安全装置を設置する義務 ④労働者に保護具を使用させる義務があります。又 人的措置の義務は ①安全監視人等を配置する義務 ②安全衛生教育訓練を徹底する義務 ③労働災害被災者、健康を害している者等に対して、治療を受けさせ、適切な健康管理、労務軽減を行い、必要に応じ配置換えする義務 ④危険有害業務には有資格者、特別教育修了者等の適任の者を担当させる義務、これらは過去の裁判例から挙げられます。いずれも危険が予測されたものは、回避する義務があると解せられます。
   労働安全衛生法を遵守することは最低限のことですが、これに加えて、労働災害発生の危険を予測し、危険回避の予防対策をとることは、労働安全衛生に関する安全配慮義務を遂行していることになります。この点でリスクアセスメントは、危険の予測と危険回避を中心にした活動ですので、労働契約法5条と直接関係しています。

  今後もリスクアセスメント活動を継続することは、労働災害を未然に防止するとともに、安全配慮義務を遂行していることになります。引き続き事業所内で全員参加のリスクアセスメントを継続して取り組まれることを期待します。


鹿児島労基 平成25年11月号掲載

第86回日本産業衛生学会に参加して

基幹相談員 堀内 正久
(担当分野:産業医学)

  今年は、愛媛県松山市で、5月14日~18日の日程で、第86回産業衛生学会が開かれた。平成25年度は、第12次労働災害防止計画および健康日本21(第二次)の初年度ということもあり、産業保健に対する国の施策について新しい情報を得ることができた。以下、シンポジウムに取り上げられたテーマをいくつか羅列してみると、現在の産業保健の方向性を垣間見ることができる。「エビデンスに基づく産業栄養の実現に向けて」、「遺伝子情報の産業保健への応用」「特定健診・特定保健指導:産業保健と地域保健の連携」、「大学・研究機関における研究活動と安全衛生管理のあり方」、「がんになっても、働き続けるために」、「職場のメンタルヘルスのグランドデザインを考える」「胆管がん―新しい職業がんの発見」、「事業場内産業保健スタッフ等と他職種との協働を考える」などである。私自身は、大学・研究機関で産業医を行っているので、通常は話すことのできない同じ立場の方の意見を聞くことができ有意義であった。産業衛生学会は、7500名規模の会員数であり、地方で開かれた学会にもかかわらず、3000名近い方が参加されたと聞いている。大事な点は、産業保健に関わる多くの職種の方が参加されていたことであろう。シンポジウムテーマからわかるように、栄養士や産業保健師、作業環境測定士、心理療法士などの方々も多く参加されており、熱心に討議に参加されていた。このような大きな会が愛媛で開かれるということで、鹿児島から愛媛に行くのに、飛行機の予約が取れないのではと少し心配していたが、それは全くの杞憂であった。あとから調べたが、日本産業衛生学会の鹿児島の会員数は、36名であり、この数年、減少傾向にあるとのことであった。全国学会だけでなく、地方会も九州の各都市持ち回りで開かれており、産業保健に関する新しい情報を得る場所としては、有用な学会ではないかと考える。地方会は、この7月に宮崎市で開かれ、来年は、北九州市の産業医科大学キャンパスで開かれる。よろしければ、ぜひ一度、学会HPを見ていただき、会員になって頂ければと思う。
http://www.sanei.or.jp/

  最後に、学会を通じて、最も印象に残ったことを挙げておきたい。上記シンポジウム「特定健診・特定保健指導:産業保健と地域保健の連携」の中で、就業時の健診が不十分なため、国保に移ってから、いきなり透析になるケースが少なくないということを国保の担当者が言われていた。私自身も昨年度、残念ながら、腎疾患の事後措置が十分でなく、腎機能障害悪化に至った例を経験していたので、その発言者の言葉が強く胸に響いた。言い古された言葉ではあるが、職場健診の最も大事な点は、事後措置である。人的パワーの不足している現場で、いかに効率的かつ有効な事後措置ができるかは、産業保健の大事なテーマであり、これからも変わらずより追求していくべきことである。


鹿児島労基 平成25年9月号掲載

健康会計について

基幹相談員 楠本 朗
(担当分野:メンタルヘルス)

  今,健康会計という新しい概念がでてきています。ご存知でしょうか。
  労働基準監督署の役割は,憲法第27条第2項に基づき労働条件の最低基準を定める労働基準法や労働安全衛生法等の労働基準関係法令の実行を確保することです。これは違反に対して罰則を行うという,いわばアメとムチでいうところのムチにあたります。そうではなく労働安全衛生法等をきちんと守ると,企業にとって経済的にメリットがありますよという考えが,健康会計という概念です。アメとムチでいうとアメにあたるといえるでしょうか。
  2007年,経済産業省は「経済成長と公平性の両立に向けて」という報告書の提言において,『働くことや生活を楽しむことができることを含めて、健康で自立して暮らすことができる期間(健康寿命)の延伸を図り、失業・貧困に陥 るリスクを減少させるため、予防医療の促進とあわせ、「健康会計」の検討等、個人・企業の健康投資の充実を促す仕組みづくりを進め、企業や社会における健康経営・健康増進の取組を促進する』と述べています。

  健康に価値があるのは当然のことです。しかしいくら価値があるからと言っても,それだけではどう評価していいのか分かりません。健康という目に見えない価値を数値化,すなわちお金にかえて企業に従業員の健康がどれだけ大切か認識してもらい,それによって従業員たち,ひいては企業そのものを健康にしようと提案するのが健康会計です。  
  健康会計とは,企業が安全衛生・産業保健活動にかけた費用と効果を会計上の手法を用いて表すことを意味します。企業や健保が社員の健康のために,何に,どのように,いくらお金を使ったのかを明確にし,それに対する効果を算出します。健康会計の目的は,コスト削減ではなく,コストの有効利用ということになります。  
  そのためには,何にどうお金が使われているのか数値化していく必要があります。たとえば避難訓練をしたとしましょう。避難訓練が業務時間中に1時間行われたのであれば,社員はその間職場を離れ,仕事をすることができません。そうすると「活動への参加コスト=1人当たり1時間の人件費×時間×人数」という形で費用が算出できます。産業医科大学では,産業医大方式安全衛生コスト集計表を公開しています。
http://ohtc.med.uoeh-u.ac.jp/health-accounting.html
興味のある方はご覧になってみてください。

  しかしコストに対して,効果をどのように数字化するかというのは難しい問題です。健康といっても,健康状態を把握する期間をどう設定するかによってデータの捉え方はかなりかわってきます。1年間という間隔で健康状態の推移を把握するのか,5年間か,10年間かでは結果はかわってくるでしょう。効果をどのように算出していくかは今後の課題と言えます。  
  健康会計という概念はまだ新しく,企業も取り組み始めたばかりです。ただ健康に対してコストと効果を数値化し,企業が何もしなければ生じたであろう損失を回避することで,結果として利益を得るのであれば,企業が労働安全衛生に対して,積極的にかかわる動機となる可能性を秘めています(今後,健康会計に力を入れている企業に対し税の控除などが認められれば,企業はさらに強い動機を得ることになるでしょう)。  
  労働者の安全衛生に関して,企業がルール違反を行った場合は,労働基準監督署が罰則を行うと同時に,健康会計で企業自らが積極的に安全衛生のルールを守るようになれば,働く人にとって有利になりますし,結果として企業も利益を得ることになります。近々そんな時代がやってくるかもしれません。


鹿児島労基 平成25年7月号掲載

「対人援助職者のメンタルヘルス~感情管理と感情労働~」

基幹相談員 久留 一郎
(担当分野:カウンセリング)

  アメリカの社会学者であるアーリー・ホックシールドが、対人サービス・援助職における職務の共通的特徴として「感情労働」という概念を提唱した。
  「感情労働」は、① 感情労働職者(サービス提供者)側の感情を「商品」とみなし、② 職務上、望ましい感情や心理状態に相手・顧客が変化することを意図し、③ 自分の感情をコントロールすること(感情管理)が、職務の中で課せられている労働を指す。 その「感情労働」により、対人援助職の労働者は、「感情規則」が課せられ重篤なストレスに曝され、感情の麻痺や自己の喪失に至る危険にさらされることがある。
  ホックシールドによれば、感情労働の条件として、相手との「直接的な接触又は対話」があること、さらに相手に「職務上望ましい感情を引き起こすこと」が求められるという。
  これまで感情労働研究は、客室乗務員をはじめとして、様々な職種で行なわれており、中でも、看護師を対象にした研究が多くなされてきた。この背景には、看護師が患者との間で(「白衣の天使」のイメージなどの)よい感情労働を行おうとするあまり、バーンアウトしたり、本当の感情がわかならなくなってしまうなどの心理的反応が現われるという経緯がある。

  航空機の客室乗務員や医療現場の看護師、介護士と同じように、職場の労務管理者、衛生管理者、人事管理者なども、対人援助職者として相手の満足感を高めるための「感情規則」に支配され、心理的には辛いストレス状況に陥る。また、昨今の職場におけるメンタルヘルス不調などその背景には、このようなストレスも介在している危険性がある。
  特に企業のメンタルヘルス担当者や医師、臨床心理士などの仕事は、安定した感情管理が求められている。その職務は、患者さんやクライアントとの直接的な接触や対話が欠かせないものであり、患者さんという人間を深く理解する人間性、また、クライアントという人間の内面世界へ寄り添い、正確な共感を伝えることのできる人間性が求められている。
  臨床心理士などのカウンセラーの場合、「スーパーヴィジョン」という場が提供されてい る。熟練したカウンセラーが若手のカウンセラーを「スーパーヴァイズ」したり、カウンセラー同士で「スーパーヴァイズ」する場が提供されている。「スーパーヴィジョン」を受けることで、「自分一人で感情労働のストレスを抱え込むことなく」、「自分の葛藤状況にきづき、克服すること」で安定した健全な感情管理が促進される。

  感情労働者である対人援助職担当者のメンタルヘルスは、今後、「スーパーヴィジョン」のような「感情管理」の場が提供される必要があるものと強く感じている。
   (本文は、鹿児島県医師会報平成24年10月号で発表した内容を引用し、修正付加したものである。)


鹿児島労基 平成25年5月号掲載

お酒で太る、やせる?

基幹相談員 堀内 正久
(担当分野:産業医学)

  忘年会や新年会、送別会の時節柄、飲酒の機会も通常よりも多いのではと思います。産業保健領域において、飲酒指導は重要な項目であり、様々な視点から考えていく必要があるかと思います。厚生労働省のデータによれば、働き世代において、年齢とともに、飲酒量は減り、飲酒機会が増えるということが示されています。付き合いとしての飲酒機会は増えるが、体にとってのアルコール代謝能力は低下するということを示唆しています。アルコールの代謝能力は、一般に肝臓の代謝能力ですから、糖代謝や血圧維持機構と同様、老化指標の1つとして考えることもできます。表題の「お酒で太る、やせる?」については、アルコールの種類と生体代謝の2点を考える必要があるようです。発酵酒のビールや清酒はアルコール以外に100mlあたり数gの糖質を含んでいるので、毎晩の晩酌で、1年間で1~2kgの体重増加につながります。昨今、糖質オフビールが市場をにぎわせているのは、ダイエットブームと大いに関係があるのは皆様の知るところかと思います。また、アルコールは、熱量計の測定で、1gは7kcalに相当するとされています。大事な点は、アルコールが完全に酸化分解された場合には、その数字が当てはまるということです。ご存知の方も多いかと思いますが、アルコールは、アルコール代謝酵素系と薬物代謝酵素系の2種類で代謝されます。お酒を飲むことでお酒に強くなるのは、後者の系が高まることによるとされています。この2つの系の大きな違いは、アルコールからのエネルギー産生量が、アルコール代謝酵素系は薬物代謝酵素系よりも多い、という事実です。薬物代謝系では、アルコールはエネルギーになりにくいことが知られています。京都大学の糸川先生等のデータでは、アルコール摂取量が多くなると、脂質やたんぱく質摂取量は変わらないが、炭水化物摂取量が減ることが報告されています。アルコールがエネルギーにならない場合は、摂取炭水化物の減少によって、結果的にはやせる方向になるのかもしれません。イメージとしては、大酒飲みは、やせているということにつながるのではと思います。アルコール摂取によって、血中ビタミンB1やマグネシウム濃度の低下も報告されています。マグネシウムは昨今、糖尿病の病態修飾因子としても注目されています。これら因子の変化が、体重変化に二次的な影響を与えるかもしれません。面白いことに、飲酒量とナトリウム摂取量は正の相関があることも報告されています。体内水分量の関係から、酒の肴には注意が必要ということかもしれません。

  以上の議論を踏まえると、「お酒で太る、やせる?」は、どちらもありうると言うことが言えるかと思います。働く方の健康を考えたとき、お酒の功罪を考えながら、適量摂取や酒の肴を考慮した適切な飲酒が望まれるというのは言い古されたことではあります。適正体重の維持は、健康維持の基本ですから、適正体重の維持という視点からも、このことを意識する必要があるように思います。


鹿児島労基 平成25年3月号掲載

職場における化学物質の管理

基幹相談員 林 和幸
(担当分野:労働衛生工学)

 

  当化学物質の職場における管理物質は、総数5万種を超え、毎年数百の物質が新たに導入されている現状であるといわれており、この原稿を作成するにあたり、私の手元に11年前に皆様方の職場でのテキストとして、講習会場にて配布された、厚生労働省化学物質調査課編集・中央労働災害防止協会発行の―指針と解説―“ここがポイント!”「これからの化学物質管理」を参考に、更に今後これからの化学物質の対処方向について、私論を述べさせて頂き、皆さまの参考にして頂ければ幸いに存じます。現場を11年間訪問し、当該テキストに述べられた項目は、地道着々と前向きに進められております。

  テキストの目次は、1.総論2.「化学物質等による労働者の健康障害を防止するため必要な措置に関する指針」の逐条解説 3.指針に基づく管理の実際 4.参考資料と記してありましたが、多数の項目のうち、特に作業環境測定士として現場を訪問すると共に、感じ入った事柄をお伝えし、今後どのようにして乗り切って行ったらよいのか、己なりに感じた事柄等を述べさせて頂きます。
  化学物質の情報は法の一部改正により労働者の健康障害防止措置の公表と検討会による具申を加味したリスクアセスメントの実施・監査等の実施に向け備え付けられつつあるのが現状です。具体的には人材育成・MSDSの作成・有害性情報の評価の具体的試みの期間であるといえ、ハザードの把握とリスクの低減目標を明らかにし、低減させつつあります。
  当該化学物質管理に関する動向は、ILO条約等基準の考慮、EU等国際基準の考慮、MSDS等国内的基準の考慮による影響等が現場にも出現しつつ、非常に広範囲の業務であります。この11年の間に日本の経済は中国に抜かれ、失業者数は増加し、生活保護家庭数も増加、労働者の年間収入等労働条件も大幅に低下しつつあるなか、企業も存亡を賭けた計画が必須となりつつある状況下にあります。
  ソビエト連邦の崩壊は社会主義の崩壊とは見られるものの、中華人民共和国のような社会主義国体の持続は、今までの社会主義国観念は通用しない事を念頭に、日本の資本家・労働者・主婦・家族が新しい価値観念をもった思想の発生がそろそろ出てきても良い時機が到来して来たと思考しておく必要があるように考えられ、特に人材の育成にあたっては、効果的集団組織に適した人材育成への組み換えが必要になって来ていると感じております。

  1本の矢は簡単に折れ果てますが、3本の矢は中々折れないと申します。有害性情報把握も、当該評価も、人材育成すら「集団行動」で効率よく効果的経済的に、当該「これからの化学物質管理」の“ここがポイント!”として取り組む時機が来ているのではと感じ入っているところです。


鹿児島労基 平成25年2月号掲載

 

平成23年度 「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」 まとめについて

基幹相談員 前田 雅人
(担当分野:産業医学)

 

  平成24年6月15日に表題の労災補償状況が厚生労働省から発表されました。注目すべきは,うつ病や仕事上のストレスなどが原因となっておこる精神障害に関する事案の労災補償件数の増え方であり,請求件数は1272件と前年度から91件増加,3年連続で過去最高となっています。支給決定件数も325件と前年度より17件の増加,過去最高でした。この背景には長引く不況による職場環境の悪化,対人関係トラブルの増加があると考えられています。内容をみると,業種別(大分類)では請求件数,支給決定件数ともに「製造業」(216件,59件),「卸売業・小売業」(215件,41件),「医療,福祉」(173件,39件)の順に多く,中分類では,請求件数は「医療業」(94件),支給決定件数は「総合工事業」(22件)が最多でした。職種別(大分類)では,請求件数は「事務従事者」(323件),「専門的・技術的職業従事者」(318件),「販売従事者」(167件)の順に多く,支給決定件数は「専門的・技術的職業従事者」(78件),「事務従事者」(59件),「販売従事者」(40件)の順であったようです。年齢別では請求件数,支給決定件数とも「30~39歳」(420件,112件),「40~49歳」(365件,71件),「20~29歳」(247件,69件)の順でした。

  一昨年12月下旬この増え続ける精神疾患による労災申請に対して,厚生労働省は審査の迅速化を図るため,新たな基準を導入しました。ポイントの一つとして心理的負荷評価表を策定し,「強」「中」「弱」の具体例を記載,「発症前6か月の間に2か月連続で月120時間以上の残業をした場合」,もしくは「3か月連続で月100時間以上の残業をした場合」など,「強い」心理的負荷となる時間外労働時間数として判断する数値を明確にしました。また「特別な出来事」の「極度の長時間労働」を「月160時間程度の時間外労働」と明示,「強」の心理的負荷と合わせ,精神疾患になった場合,それだけで労災認定すると定めました。さらに,新基準ではセクシャルハラスメントやいじめが長期間持続する場合には6か月を超えて評価できることになっていますし,発病者であっても特に強い心理的負荷で悪化した場合には労災の対象とすることも可能なようです。
  一方,脳・心疾患に関する事案の労災補償状況の平成23年度請求件数をみたところ,898件と前年度より96件の増加で,この傾向は2年連続しています。請求に対する支給決定件数も310件と昨年よりも25件の増で,4年ぶりに増加に転じているようです。業種別(大分類)では請求件数,支給決定件数ともに「運輸業,郵便業」(182件,93件),「卸売業・小売業」(143件,48件),「製造業」(132件,41件)の順に多く,中分類では請求件数,支給決定件数ともに「運輸業,郵便業」の「道路貨物運送業」(123件,75件)が最多であったようです。職種別(大分類)では,請求件数は「輸送・機械運転従事者」(173件),「専門的・技術的職業従事者」(124件),「販売従事者」(113件)の順に多く,支給決定件数は「輸送・機械運転従事者」(89件),「専門的・技術的職業従事者」(37件),「管理的職業従事者」「サービス職業従事者」(ともに32件)の順に多い結果でした。年齢別では請求件数,支給決定件数ともに「50~59歳」(314件,119件),「40~49歳」(228件,95件),「60歳以上」(227件,60件)の順に多い結果でした。

  精神障害の労災に関する新基準の情報をお伝えしましたが,脳・心疾患による過労死についても「過労死防止基本法」の制定の動きがあるようです。今後も紹介していきたいと思います。


鹿児島労基 平成25年1月号掲載