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令和4年バックナンバー

“認知症予防は40代からの生活習慣の見直し改善で”

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
德永 龍子
(鹿児島純心女子大学名誉教授)
(担当分野:保健指導)

2022年度診療報酬の「療養・就労両立支援指導料」に若年性認知症が追加された。

鹿児島県によると2021年10月1日時点で認知症の症状が見られる40~64歳は662人、高齢者は6万3073人。鹿児島県は、患者や家族が安心して暮らせる地域医療体制を目指して2022年8月26日付で県内11認知症専門医療機関を統括し、より高度な診断、治療及び専門相談に対応する「基幹型センター」に鹿児島大学病院神経科精神科を指定した。

若年性認知症とは、18歳以上65歳未満で発症した認知症をいう。現役世代での発症のため、本人や家族が被る心理・経済的問題が大きい。2020年7月の「わが国の若年性認知症の有病率と有病者数」を地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所調査では、30代・40代・50代・60代と年齢が上がるごとに倍増し50代からは男性が女性の1.5倍と多い。18~64歳人口10万人当たり有病率は50.9人で、鹿児島県の15~64歳人口81万8692人で推計すると約416人となる。その原因疾患の53%がアルツハイマー型認知症、17%が血管性認知症、4%が外傷である(令和3年日本医療研究開発機構認知症研究開発事業)。

しかし近年、様々な認知症研究が進み、発症のメカニズムや危険因子が分かってきた。その結果30~40代から認知症のリスク低減に取り組めば、発症や進行防止が可能という考え方が注目されつつある。

認知症協会理事の山根一彦博士は、認知症予防には25年前からの炎症、萎縮、毒素の予防を上げる。炎症予防には、2型糖尿病,虫歯や歯周病、夜更かし防止。萎縮予防には、脳の栄養である雑穀米、豆類・豚肉・卵・魚などの蛋白質、野菜、海藻、茸など新鮮な自然食品を3食よく噛んで腹8分の食生活習慣。過度のアルコール、タバコ、カビ、細菌は、脳関門を通過し脳細胞を直接傷つける毒素となる。

2020年英国の医学雑誌「Lancet」の認知症予防・介入・ケアに関する国際委員会は、45~65歳の中年期、66歳以上の高年期における改善可能な認知症の因子を発表した。認知症の危険因子をもつ人が、もたない人に比べて認知症になりやすい倍率は、中年期では難聴1.9倍、頭部外傷1.8倍、高血圧1.6倍、肥満1.6倍、過度の飲酒1.2倍。高年期では抑うつ1.9倍、喫煙1.6倍、社会的孤立1.6倍、糖尿病1.5倍、運動不足1.4倍である。同委員会は、これらの要因を改善することで認知症の40%を予防したり、進行を遅らせたりする可能性を示唆している。

2019年世界保健機関(WHO)も認知症予防に関する12項目から成るガイドラインを発表した。

認知症予防で30~40代にまず取り組んでほしいのは生活習慣の見直しである。運動、食生活・酒量、喫煙の改善は生活習慣病の予防改善など体と心の健康維持にもつながる。生活習慣の中で特に予防に重要なのが睡眠である。睡眠中に認知症の病因「タウタンパク質」が脳内から脳脊髄液に移動し、その後、頚部のリンパ節を通って脳の外へ除去されるからである(東京大学大学院医学系研究科 石田和久ほか)。睡眠不足だとタウタンパク質の蓄積が進んで、認知症リスクが高まる。睡眠で体調を回復し生活習慣病予防に効果的睡眠時間は7~8時間である。仕事をしている人は、仕事上の判断や決断が脳の認知トレーニングになると考えられる。

健やかなシニアライフのためには、国民が認知症予防の知識に基づき、今日から生活習慣見直しを実行することである。一方で認知症の超早期発見法、治療薬、予防ワクチン等の研究開発が世界中で進んでおり、認知症は予防し迎え撃つ希望の時代にある。

鹿児島労基 令和4年11月号掲載

パソコン作業時の負担を少なくする方法

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
岡村 俊彦
(鹿児島県立短期大学 商経学科 教授)
(担当分野:労働衛生工学)

いまや、パソコンをまったく使わない職場はかなり少ないと思います。パソコンのかわりにタブレットを使うことも増えてはいるでしょうが、当面、パソコンを使った作業の比率がそうそう下がることは考えられません。パソコンのようなディスプレイを使った作業は情報機器作業と呼ばれ、特有の生体負担があります。その特徴と対応策をいくつかあげてみます。

まずは視覚への負担です。パソコンの画面を見る場合は机上の書類を見る場合に比べ、視線は上向き=上目づかいになります。上目づかいだとまぶたが開き、眼球の露出面積が広くなります(机上作業に比べ眼球露出面積が約1.5倍)。ドライアイという症状はこれが主な原因です。特に大型ディスプレイを使ったデスクトップパソコンの場合はその傾向が強くなります。この負担を減らすには画面の位置を下げることです。まっすぐ前を向いた時にディスプレイの上部が視線より下にくるのを目安にしましょう。

視線が上向きになることによる負担はもう一つあります。上向きになると視野に明るい窓などが入りやすくなります。視野に明るいものが視野に入ると瞳孔は収縮するのですが、その状態でディスプレイを見ることが眼精疲労に繋がります。また、ディスプレイにはつやつやの画面(グレアタイプ)とつや消しの画面(ノングレアタイプ)があります。グレアタイプは鮮やかな色彩で動画視聴などにはいいのですが、映り込みが多いため文字などが見えづらく、仕事には不向きです。

これらの防止策としては、明るい窓を正面や真後ろにならないように(窓が横になるように)座るか、カーテンやブラインドを使うといいでしょう。ディスプレイもなるべくつや消しのノングレアタイプがお薦めです。特にノートパソコンは角度によって天井の照明も映り込みやすいので、照明もスリット(ルーバー)が入ったタイプに変えると、斜めからの直接照明の映り込みが軽減され、ディスプレイが見やすくなります。そのうえで、ディスプレイの明るさも見やすく調整するといいでしょう。

身体=筋骨格系への特有の負担もあります。ディスプレイは作業中に気軽に動かせません。ノートパソコンはキーボードも一体化しています。つまり、パソコンの作業時はディスプレイとキーボードの位置に縛られた、座りっぱなしで手以外は動かせない拘束力の強い姿勢になるのです。これが肩、首、腰に負担がかかる原因です。パソコン作業では、つい集中して長時間同じ姿勢をとることがあり、気がつくと首が痛い、肩が凝るいったことに繋がります。特にノートパソコンは画面をのぞき込むことで首の角度が不自然になり、キーボードも比較的小さいので手首も窮屈なままタイピング操作をすることになります。

まずは自然な姿勢が取れるように椅子の高さを調整することです。椅子の高さが調整できなければクッションを使ってもいいでしょう。机上の事務作業よりキーボードの厚みの分、少し椅子を高くすると手首への負担も軽減されます。キーボードもパームレスト(手のひらを乗せるクッション)を使うとか、キー配置が工夫されたエルゴタイプ(人間工学)キーボードを使ってもいいでしょう。ノートパソコンで長時間タイピングをする人は外付けキーボードを接続すると負担が格段に少なくなることもあります。

コロナ禍の自宅勤務で、いつもの職場と違う環境でパソコンの作業をする機会が増えた人もいるでしょう。ちょっとした工夫と定期的な休息で、身体に負担の少ないパソコン作業ができるようになります。

鹿児島労基 令和4年9月号掲載

「国民皆歯科健診制度」法制化にむけて

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
門松 秀司
(公益社団法人 鹿児島県歯科医師会 理事)
(担当分野:産業医学)

 

18歳までの間(1歳6か月、幼稚園・保育園、小学校、中学校、高校まで)定期的な歯科健診を受診する機会がありました。

しかしながら、高校を卒業した後は、妊娠をした女性では妊婦歯科健診、各市町村で実施される歯周病検診、高齢者におけるお口元気歯ッピー健診を実施していますが、受診率は低く、口に対する関心が低いと思われます。

また、事業所においても、塩酸、硝酸等の歯又はその支持組織に有害な物のガス等を発散する場所における業務に常時従事する労働者に対して、労働安全衛生法第66条第3項に基づく6か月以内ごとに1回実施すべき特殊歯科健診が適正に行われていないところもあります。

近年、歯と口の健康は全身に影響を及ぼすと広く知られるようになってきました。

特に、糖尿病と歯周病は関係が深く、なかなか糖尿病を評価する値(HbA1c)が下がらない患者さんが、歯科医院を受診し歯石取りや歯ブラシ指導をはじめとした歯周病治療を開始した3か月後に、食事制限・運動時間も変えずにHbA1cが低下し、お薬が1種類減ったという報告もされております。

昨年6月に政府が閣議決定した「経済財政運営と改革に基本方針2021(骨太の方針2021)」の歯科関係には「全身との関連性を含む口腔の健康の重要性に係るエビデンスの国民への適切な情報提供、生涯を通じた切れ目のない歯科健診、オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防にもつながる歯科医師、歯科衛生士による歯科口腔保健の充実、歯科医療専門職間、医科歯科、介護、障害福祉機関等との連携を推進し、歯科衛生士・歯科技工士の人材確保、飛沫感染等の防止を含め歯科保健医療提供体制の構築と強化に取り組む。今後、要介護高齢者等の受診困難者の増加を視野に入れた歯科におけるICTの活用を推進する。」と記載されています。

また、令和元年度に厚生労働省が実施した「歯科健診実施状況の自主点検事業」では、先に述べている「塩酸・硝酸・硫酸・亜硫酸・フッ化水素・黄りんその他歯又はその支持組織に有害な物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務」に対しての特殊歯科健診の実施調査を行いました。

なぜ、政府は口の健康に焦点を当てた政策を行っているのでしょうか?それは医療費の削減です。歯科健診(企業歯科健診)を行っているサンスターグループが20歳から74歳の労働者25万人の定期健康診断の結果と医療費の関係を分析し、「歯の本数が多く、かみ合わせが良いほど医療費が低い」とした報告があります。また、ほかの論文によると、定期的な企業歯科健診を実施した場合、健診を行っていない企業と比較して9万円の差があると報告されております。

つまり、むし歯や歯周病で歯を失い、うまく食事ができなくなることで糖尿病が悪化、喰いしばることができないため転倒しやすくなると言われおり、高齢者だけでなく、働く若い年代のうちから上下の歯でしっかりと食べ物を噛める口の健康を維持することが全身の健康維持増進につながります。

最近では、ある生命保険会社で認知症保障保険の保険料を「歯の健康度」(残存歯数)で割り引くプランも登場し、歯と口の健康が認知症にも関連があることを明記しております。

現在、働き盛り世代の歯と口の健康のため、国会内では「国民皆歯科健診制度」なる動きがあり、これが法制化した際は、企業に対して定期健康診断に歯科健診が追加されると示唆されます。50名以上の従業員を雇用している企業は制度化される前に試験的でもよろしいので歯科健診を検討していただけたら幸いです。

鹿児島労基 令和4年7月号掲載

新型コロナウイルス感染症後遺症とメンタルヘルス不調

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
長友 医継
(医療法人玉水会病院診療内科)
(担当分野:メンタルヘルス)

新型コロナ(COVID-19)感染症の猛威はまだまだ収まらず、本年1月から始まった「第6波」の終息はみえません(本稿執筆時点)。本感染症は、感染者の身体症状である発熱、咳、咽頭痛や肺炎など(第1の感染症)は無論ですが、感染していない人でも、COVID-19が目に見えないウイルスであることや本感染症が未知の病気であることからくる「不安・怖れ・恐怖」が心理的な症状(第2の感染症)として重視されています。また、本感染症にまつわる偏見や差別は「第3の感染症」といいます。

「第2の感染症」より重篤な症状として、周囲との交流が少なくなり、孤独感が深まることなどが関与する「コロナうつ」もありますが、このようなメンタルヘルス不調は、本感染症に罹患した人の「後遺症」としても出現することがあります。

COVID-19感染症に罹患したほとんどの人は完全に罹患前の状態に戻る一方で、「後遺症」に悩まされている患者さんもおられます。「後遺症」は、COVID-19感染後、感染する可能性はなくなったのにかかわらず、他に明らかな原因がなく、急性期から続く症状や経過の途中から新しく出てくる症状全般のことを指します。このような本感染症の「後遺症」は、WHOではpost COVID-19 condition、日本の専門家は「罹患後症状」と呼称しているようです。

COVID-19感染症の「後遺症」としては以下のような症状があります。

  1. 全身症状:倦怠感、関節痛、筋肉痛など
  2. 呼吸器症状:咳、喀痰、息切れ、胸痛など
  3. 精神・神経症状:記憶障害、集中力低下、不眠、不安や抑うつ、頭痛、生活の質の低下など
  4. その他の症状:嗅覚障害、味覚障害、動悸、下痢・腹痛など

無論、メンタルヘルス不調は「3.精神・神経症状」です。

精神・神経系に関連する罹患後症状のうち、多くの報告で共通してみられるのは倦怠感、易疲労感で、発生頻度は概ね40~80%(多いものでは90%超)です。不安・焦燥感、抑うつなどの有病率は56%(入院後1ヶ月時点)、18.1%(3ヶ月時点)との報告があります。背景には中枢神経系、末梢神経系および心理的要因があり、中枢神経系の主な機序メカニズムには、長時間に及ぶ免疫応答によるグリア細胞への障害、血液脳関門(Blood-brain barrier;BBB)の機能低下と血管透過性の亢進などがあると報告されています。なお、これらの症状は精神・神経系の基礎疾患や素因を基盤とするものもあり、基礎疾患の増悪との鑑別が必要です。また最近、軽度のCOVID-19でも脳にダメージを与え、灰白質を縮小させるとの報告もあります(オックスフォード大学、Nature)。

メンタルヘルス不調も含めてCOVID-19感染症の「後遺症」に関しては不明な点も多く、治療方法もまだ確立していません。当然のことながら本感染症に罹患しないように予防することが肝要で、ワクチン接種とともに私たち一人ひとりが基本的な感染症対策に努めることが大切です。

厚生労働省のCOVID-19感染症対策を下に記します。本感染症の一刻も早い終息を目指したいものです。

  1. 外出控え:特に体調不良時
  2. 咳エチケット:正しいマスクの着用など
  3. 換気:冬場も上手く取り組む。
  4. 手洗い:外出からの帰宅時、調理の前後、食事前など
  5. 密集回避:多人数が集まる密集場所
  6. 密接回避:間近で会話や発声する密接場所
  7. 密閉回避:換気の悪い密閉空間

参考文献:新型コロナウイルス感染症診療の手引き別冊罹患後症状のマネジメント

鹿児島労基 令和4年5月号掲載

COVID後症候群としての慢性疲労症候群

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
網谷 東方
(担当分野:メンタルヘルス)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後、後遺症として様々な症状に悩まされ続けている人々がいることが明らかになってきました。一般的な症状としては、極度の疲労感、息切れ、頭に霧がかかったような感覚、味覚や嗅覚の変化、関節痛などで、現在「COVID後症候群」や「Long COVID」と呼ばれています。COVID-19の初期症状の重症度に関わらず、COVID後症候群に最も頻度の高い症状が慢性疲労といわれています。

慢性疲労症候群という疾患名は、イギリスを中心に筋痛性脳脊髄炎(Myalgic Encephalomyelitis:ME)として、アメリカを中心に慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome:CFS)として研究が進められ、2003年に筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(Myalgic Encephalomyelitis/Chronic Fatigue Syndrome:ME/CFS)として、国際的な診断基準が発表されました。ME/CFSは、それまで健康に生活していた人に、高度の全身倦怠感、労作後の著しい疲労感、筋肉痛などの身体症状に加え、認知の障害や睡眠障害などの様々な症状が出現する消耗性の疾患です。軽症でも50%の活動レベル低下を認め、重症では完全介護の寝たきり状態となります。世界的には、ME/CFSの有病率は0.9%であり、男性に比べて女性が1.5~2.0倍多く、ME/CFS患者数は約1,700万~2,400万人と推定されています。ME/CFSの病因や病態生理はいまだ不明ですが、脳機能イメージングにより、脳内の神経炎症が関わっているということが分かってきています。

現在、日本の臨床現場で用いられているME/CFS臨床診断基準は、2016年に発表されました。鑑別すべき疾患や病態はありますが、ME/CFSの診断基準を簡単に説明いたしますと、

①強い倦怠感を伴う日常活動能力の低下
②活動後の強い疲労・倦怠感
③睡眠障害
④認知機能の障害、または起立性調節障害

の4つを6ヵ月以上持続すること、になります。中でも②活動後の強い疲労・倦怠感が特徴的であり、自験例ではポットでお湯を注いだだけで数時間寝込んでしまった、食事でスプーンを口へ運ぶだけで疲れてしまう、ただ座っているのがキツイ、寝ても寝ても楽にならないなど、患者さんは皆さん、こちらが想像している以上に辛いようです。治療としては、漢方薬を含めた薬物療法や認知行動療法などの心理療法を行います。

米疾病対策センター(CDC)によると、ME/CFS患者の約1/3はウイルス性疾患罹患後に発症するといわれています。2005年に発生したSARSでは、4年後に生存した患者の27%がME/CFS診断基準を満たしていたとの報告があります。さらに、最近のいくつかの報告では、COVID後症候群の約10~25%がME/CFSの診断基準を満たしたとのことです。2020年1月に日本で最初のCOVID-19感染者が確認され、2年後の現在もオミクロン株が猛威を振るっています。そのため、今後、COVID後症候群としてのME/CFS患者が増えてくる可能性がありますので、産業保健に関わる方々も気をつけておく必要があると思います。

鹿児島労基 令和4年3月号掲載

異変に注意 FAST は脳卒中の合言葉

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
桶谷 薫
(担当分野:産業医学)

鹿児島県の脳卒中死亡率は全国平均の1.3倍で、男性では要介護や寝たきりの一番の原因ともなっています。現在鹿児島県内では「脳卒中警報」が発令中です。自分自身はもちろん周囲の方が突然いつもと違う変化があったら次の3つのチェックポイントを含むFASTで確認してみて下さい。
○F:F(face)
顔の麻痺 にっこり笑ってみて下さい
顔の片方が左右対称でなく口角の下がりなどゆがみがありませんか

○A:A(arm)
腕の麻痺  手のひらを上に向けて両腕をあげて下さい
片腕が上がらないまたは下がっていくことはありませんか

○S:S(speech)
言葉の障害 今日は天気がいいですねと言って下さい
言葉が出てこない、ろれつがまわらないことはありませんか
FAS以外にも突然おこる次のような症状も注意です。片方の目が見えない、物が二重に見える、視野の半分が欠けるなどの目の症状。経験したことのない激しい頭痛。立てない、歩けない、フラフラするなどの症状

○T:T(time)
症状が出た時刻を確認 治療は時間が勝負です 病院への移動時間・検査時間などを考慮すると、症状が疑わしければすぐに救急隊を要請し、一刻も早く病院へいく必要があります。

脳卒中の75%以上を占める脳梗塞は、血流低下が軽いほど閉塞時間が短いほど回復は良好です。発症直後であれば t-PA 点滴静注(血栓を溶かす溶解薬)で脳への血液の流れを回復させ、脳を障害から救う治療が選択できる可能性があります。

しかし、脳梗塞が起きて時間がたち、血流が遮断され続けているとその先の血管壁は血液が供給されないためにもろくなります。そこに血栓を溶かし血流を再開させると血管が破れて脳出血を起こす危険性が高くなってしまいます。そのため発症後4.5時間以内に治療が開始できる患者さんのみが t-PA 治療の対象となります。

脳梗塞発症8時間以内であれば血管内治療を行うことができる可能性もあります。梗塞を起こした脳血管までカテーテルを挿入し、先端についたステントや吸引などの装置で詰まっている血栓を直接取り除くことで、血流を再開させる方法です。

◎大切なのは予防
脳卒中発作を一度起こすと再び起こす確率は年間5-10%程度とかなり高いです。まずは脳卒中をおこさないように生活習慣の見直しをしてみて下さい。

  • 血圧は高くありませんか?
    高血圧は脳の血管の負担となり、動脈がもろくなったり詰まったり破れたりする原因となります。塩分摂取量は血圧に大きく影響します。日頃の食事の塩分量を意識してみて下さい。
  • 糖は高くありませんか?
    糖が高くなると血管内部に傷がつき動脈硬化を引き起こしてきます。過食や寝る前の食事・間食を避け、有酸素運動(歩行運動など)もできれば毎日、少なくとも週に3~5回各20~60分間行い、血糖上昇の改善に努めて下さい。
  • 脂質は高くありませんか?
    血液中の脂質は血管壁に沈着して隆起を引き起こし、血管内が狭くなっていきます。たくさんの野菜をとりいれたバランスのよい食事を心がけて下さい。
  • 脈が不規則ではありませんか?(心房細動)
    心房細動になると心房内に血の固まりができやすく、これがはがれて心臓内から動脈内を流れて、脳の中の血管を突然閉塞させることがあります。
  • タバコを吸っていませんか?
    タバコには体への害となる化学物質が200種類以上含まれています。喫煙と高血圧とによって脳卒中死亡のリスクが約4倍高くなるというデーターもでています。

今日から予防 異変に気づいたらまずFAST

鹿児島労基 令和4年1月号掲載