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令和2年 バックナンバー

「新型コロナ感染症への心理的対応とダブルバインド(二重拘束)」

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
久留 一郎 
(担当分野:カウンセリング)
(鹿児島大学名誉教授)

 

コロナ感染症のパンデミックにより、今までにない「新しい生活様式」が出現し、テレワーク、オンライン授業、マスクをかけての心理面接など戸惑うことの多い毎日である。

コロナウィルスという「モノ」に対する距離の取り方が「心理的(こころ)な距離の取り方にも影響を与えている。三密という心理的距離と身体的距離の在り方がカウンセリングという心理治療構造にも影響を及ぼしている。心理面接(カウンセリング)の構造は時空間と深い関係にある。社会的距離は親密であり、空間は自由で安心できる「非日常的空間」であり、会話は外に漏れないような空間として構造化されている。

コロナという「モノに対する区別的関係」とコロナ感染症の「人間に対する差別的関係」が同一視され、混とんとしているように思われる。いわば、二重拘束(ダブルバインド)の状況にあるといえよう。人の「ココロ」が「コロナ」感染症を生み出しているとも思われる。日本においては仏教(空海)の教え「三密」が知られている。身しん密みつ:身体行動についての教え、口く 密みつ:言葉・発言についての教え、意い 密みつ:心、考えについての教えという考えがある。まさに人に対するありようを示していると思われるが、この現状を見て空海は何というだろうか。ココロは「密」に、コロナは「粗」にだろうか。

この新生活様式になって気になる新しい障害(心理的反応)?が生まれてきたような気がする。「まじめで責任感の強い人間」がコロナによる心理的反応を示し、自粛ポリスのような監視的言動を示し、自己完結的な人間が権力志向的な言動を示すなどがそうである。

例えば発達障害のある人は新生活様式になじめているのか気になるところである。今までの生活様式から急にマスクをつけることになり、対面で食事をしないこと、会社や学校に行かず家に閉じこもりテレワークをすることなど、こだわりの強い発達障害(ASD)の人間が新生活様式に馴染めるのか気になる。

日本的文化においては「同調圧力」という心理的反応が強くなる、と言われる。特に「世間体」という同調圧力は日本的刷り込みにより、「監視的行動や自粛的行動」を煽りがちである。「マスクをしない人間は職場に出てくるな」という圧力的言動はしばしば見られる。「置かれたところで咲きなさい」も、危険なにおいがするこの頃である。自助、共助という「同質性の強調」が煽られ、「異質性の排除」を煽りやすい。正しく見えることの背景には危険な人間観も潜んでいることに気づくことが大切である。

この混とんとした心理社会的状況から、新しいメンタルヘルス支援のあり方や「真の人間学的臨床哲学」が生まれることを心から願っています。

鹿児島労基 令和2年11月号掲載

自粛によって注意しなければならない肝臓疾患

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
桶谷 薫
(担当分野:産業医学)
(鹿児島県民総合保健センター 所長)

 

コロナの影響で自宅で過ごすことが多くなってきている最近、様々な体の変化に注意していかなければなりません。そのひとつに運動不足、食事過多による脂肪肝があげられます。

この脂肪肝の中には放置しておくと肝硬変や肝がんへ進行する可能性がある怖い病気、非アルコール性脂肪肝炎(NASH:ナッシュ)が含まれています。

●単純性脂肪肝とNASH(非アルコール性脂肪肝炎)

肝臓内に中性脂肪が蓄積された状態を脂肪肝といいます。高級フランス料理に使われるフォアグラは、鵞鳥(ガチョウ)の脂肪肝状態です。脂肪肝は大きくわけて、アルコールが原因のものと、食事の取り過ぎが原因のものにわかれます。後者を非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD:ナッフルディー)と呼んでいます。この中で、良性の経過をたどるタイプを単純性脂肪肝、肝硬変や肝がんへ進行する重症型を非アルコール性脂肪肝炎(NASH:ナッシュ)と呼んでいます。

鹿児島県民総合保健センターで腹部超音波検診受診者のうち超音波画像上、脂肪肝疑いがあったのは23.8%とかなり高い割合で見つかっています。この脂肪肝の中にNAFLDが含まれその約1割がNASHであり、患者数は約100 ~ 200万人と推定されています。男性の多くは、飲酒習慣があるため、アルコール性肝障害とNASHが合併している場合も多いと考えられます。

●放置できないNASH

NASHは5~ 10年で5~ 20%が肝硬変に進行すると考えられています。これまで日本では肝癌の発生の多くはB型肝炎やC型肝炎ウイルスに感染している患者さんが90%程度を占めてきましたが、近年肝炎ウイルスに感染していない肝癌患者が増加傾向にあります。これらの原因の約半数はNASHが原因と推察されています。

単純性脂肪肝やNASHには痛みなどの自覚症状はありませんが、疲れやすい、肩がこるといった症状が出ることもあります。肝機能を表すALT(GPT)が基準値を上回る、腹部超音波検査で肝臓が高輝度(白っぽく)に見えると脂肪肝と診断されますが、一般的な血液検査で単純性脂肪肝とNASHを鑑別するのは難しく、肝線維化マーカーや肝生検が有用です。肥満、糖尿病、脂質異常症の人、ALTがなかなか改善しない人はNASHの可能性がありますので、精密検査が必要です。

●NASHの治療

単純性脂肪肝もNASHも生活習慣の改善が第一です。食事療法、運動、禁酒を行い、体重を2~3kg減らしただけでも、肝機能が回復します。自宅で偏った食事をしている場合、揚げ物などの脂っこいものやごはん、パン、麺類などの炭水化物の量をひかえるとともに、間食のお菓子、清涼飲料水などに使われる精製された糖類(ショ糖、果糖)や果物の取り過ぎにも注意してください。自粛や制限でなかなか運動が思うようにできない場合、自宅内や近隣でスクワット、片足立ちなどの軽い筋トレを継続的に行うことで筋肉をつけ基礎代謝を増やし太りにくい体を作ることが大切です。単純性脂肪肝/NASHの薬物治療では、抗酸化剤や肝庇護剤などを使用する場合がありますが特効薬はありません。

以前は脂肪肝は悪くならない病気と思われていましたが、NASHは肝硬変、肝癌まで進行し、死に至る可能性のある病気です。肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧症などと同じく生活習慣病のひとつです。脂肪肝といわれても軽んじず、生活習慣の改善を行うことが今こそ大切です。

鹿児島労基 令和2年9月号掲載

事務所での新型コロナウイルス感染症対策

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
小田原 努  
(担当分野:産業医学)
(ヘルスサポートセンター鹿児島 所長)

 

この原稿を書いているのは新型コロナウイルス感染症がひとまず落ち着き始めている5月末ですが、この記事が皆様の目に入る7月頃も落ち着きはまだ継続しているでしょうか。今年の秋、冬はインフルエンザの感染流行も想定されており、発熱外来はインフルエンザかコロナかと判断に迷う可能性もあります。今年は早めのインフルエンザの予防接種が望まれると思います。

ところで、三密が気になる事務所ですが、産業医巡視で事業所を訪れますと各社いろいろな工夫をされているのが目につきます。机と机の間に敷居を設けたり、皆が一方向を向くように机の配置を変えたり、1部屋では狭いので会議室を事務所に変えて、人の密集を改善したりといろいろ対策を取られています。ただ、この方法で良いのかと不安に思われている担当者も多いのが現状です。

そこで今回は、厚生労働省から発行されている「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」をもとに、特に事務所で取るべき対策をまとめてみたいと思います。

まず、事務所内で「換気の悪い密閉空間」、「多数が集まる密集場所」、「間近で会話や発声をする密接場面」の三密を防ぐ対策ですが、一つ目の「換気の悪い密閉空間」について、室内の換気状態の良し悪しを判断することが大切です。そのための簡易なツールが用意されており、日本産業衛生学会のホームページにある産業衛生技術部会の「新型コロナウイルス感染症対策用換気シュミレーター」が有用です。部屋にいる人数、部屋のサイズ、室内での活動状況、換気装置の条件などを入力することにより、室内の二酸化炭素の濃度を推定し、これにより換気の良し悪しを見積もることができます。簡単に使用できますので、まずこれにより、部屋の換気状態を判断し、人数が多い場合は、他の部屋に分散することも検討しましょう。

また窓の解放による換気方法ですが、30分に1回以上、数分程度、窓を全開することが望まれます。空気の流れを作るために、複数の窓がある場合、二方向の壁の窓を解放することが原則です。窓が一つしかない場合は、ドアを開けましょう。御存知のように、クーラーは室内の空気を循環させるだけで、室外の空気を取り入れてはいないので、冷房を用いる夏場は特に、窓を開けたりして換気をすることが大事です。

また昼食時はマスクを外しますので、休憩スペースは特に注意が必要です。換気を行うほか、定期的にドアノブや机を消毒したり、入退出時に手指の消毒を励行しましょう。

新型コロナウイルス感染症との闘いは長丁場です。三密を防ぐために、人との距離を設けたり、接触頻度を減らすことで、社員同士のコミュニュケーションも減りますので、管理職の方は意識的に声かけするようにお願いします。朝の挨拶を基本に、1日1回は部下の皆様と話するように心がけてください。

鹿児島労基 令和2年7月号掲載

依存症という病気とその支援

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
竹之内 薫  
(担当分野:メンタルヘルス)
(鹿児島県精神保健福祉センター所長)

 

マスコミにて,スポーツ選手,歌手や俳優等の薬物使用による逮捕の報道が最近でも続いてみられます。これらの人々は意志が弱いから薬物がやめられないのでしょうか。また依存症は意志が弱いから罹患するのでしょうか。始めたきっかけは様々なことがあると思いますが,やめられなくなるメカニズムとして脳内にある報酬系の問題があります。ここに刺激が入ると,アルコールが欲しい,薬物が欲しい,ギャンブルをしたいという気持ちが抑えきれなくなり,問題となる行動が持続し,もはや自分ではコントロールできなくなってしまうのです。マスコミでバッシングしても,本人が土下座して謝り反省したところで病気はよくならないのです。薬物により刑務所で数年刑を受けても,再犯率は高いのです。このように依存症とは病気であるということの認識をする必要があります。また薬物やアルコール,ギャンブルなどに依存する人々の傾向として,「自己評価が低く,自分に自信がない」「人を信じられない」「本音を言えない」「見捨てられる不安が強い」「孤独で寂しい」「自分を大切にできない」などの特徴があると言われています。また信頼障害があると述べる研究者もいます。薬物やアルコールの再使用や再度のギャンブルをしても,孤独にならないよう見捨てないで支援し続けることが大切になります。また依存症者の家族等も多くの悩みをかかえ,よかれと思う行動にて依存症をますます長引かせてしまうことがあります。巻き込まれて手助けをしてしまう,いわゆるイネイブリングと言われる行動です。本来ならそこから手を放すことを勧めていく必要があります。

依存症は,適切な治療と支援により回復が可能な疾患ですが,依存症であるという自覚を持ちにくいという特性や専門医療機関の不足等より依存症者やその家族等が必要な支援を受けられていない現状があります。国も,平成26年6月アルコール健康障害対策基本法を施行し,平成28年5月アルコール健康障害対策推進基本計画が閣議決定され,アルコール健康障害に関する予防及び相談から治療,回復支援に至る切れ目のない支援体制の整備をはじめとした施策の推進に取り組むようになりました。また薬物依存については,平成28年6月より薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予に関する法律が施行され,刑の一部を保護観察付きの執行猶予期間とすることが可能となり,より治療に結びつけやすくなりました。さらに平成30年ギャンブル等依存症対策基本法が成立し,平成31年4月にギャンブル等依存症対策推進基本計画が閣議決定され,ギャンブル等依存症の治療や回復の対策を講じ,ギャンブル等依存症者やその家族の日常生活が円滑に営むことができるように支援することとなりました。

そこで鹿児島県精神保健福祉センターでは,以前より薬物相談や一般相談で依存症者やその家族等の相談を受けてきましたが,平成29年9月にアルコール健康障害,薬物依存症,ギャンブル等依存症に関する専門相談窓口を月1回設置しました。さらに令和元年度よりは専門医による依存症専門相談,依存症家族教室を月1回始めました。依存症専門相談では,対象者は本人(依存症や依存症が疑われる者)及びその家族等で,対象とする依存症は,アルコール依存症,薬物依存症,ギャンブル等依存症等です。また依存症家族教室では,対象者は依存症や依存症が疑われる者の家族で,対象とする依存症は,アルコール依存症,薬物依存症,ギャンブル等依存症に限定しています。専門相談,家族教室とも参加は電話での予約や申し込みが必要ですが,無料で行っています。そのような対象者やその家族がおられましたら,まずは当センターへの電話(099-218-4755)を勧めてみてください。

鹿児島労基 令和2年5月号掲載

自律神経失調症ってどういう病気?

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
網谷 東方   
(担当分野:メンタルヘルス)
(鹿児島大学病院 心身医療科)

 

自律神経失調症という言葉は、多くの方が一度は聞いたことがあると思います。私は普段心療内科医として診療しておりますが、自律神経失調症という病気について、ご自身がそうであることを知らない方、人に言われてそうだと思いこんでいる方、誤って理解している方などにお会いすることがよくあります。ここでは、自律神経失調症という病気について、わかりやすく説明したいと思います。

そもそも自律神経とは何でしょう。自律神経は、交感神経と副交感神経の2種類の神経からなります。交感神経と副交感神経は1つの臓器に対して相反する作用をもち、発汗、心臓の拍動、腸の蠕動運動など、全身の臓器機能を自動的に調節しています。一般的には、緊張するような場面で働くのが交感神経、リラックスするような場面で働くのが副交感神経といわれています。

自律神経失調症は、心や体へのストレスが引き金となって自律神経が乱れ、心や体に不調があらわれた状態です。自律神経失調症では、多汗、倦怠感、めまい、頭痛、動悸、不眠など、多彩な症状があらわれます。ただし、症状は人によって多様に異なるのが特徴です。そのために、病院で検査をしても、「はっきりとした原因が分からない」、もしくは「異常なし」と言われてしまうことが多いと考えられます。

子供に起こりやすい起立性調整障害、病院などで血圧が高くなる白衣高血圧症、下痢や便秘を繰り返す過敏性腸症候群、ホルモンバランスの乱れによる更年期障害、突然のパニック発作が起こるパニック障害なども自律神経の乱れが関わっていると考えられています。

自律神経失調症の検査として、①シェロングテスト、②ヘッドアップティルトテストや③心電図R-R間隔がよく用いられます。ここでは、各検査の詳細につきましては、割愛させて頂きます。

自律神経失調症は、ストレスや生活の乱れなどに対して体が発する注意のサインといえます。私が専門とする心療内科で行う治療としては、まずは適切な生活が送れているかの見直しをいたします。また、仕事や家事、介護などでオーバーワークとなっていないか、家族内や地域社会、職場などでの人間関係でストレスを抱えていないか、若い人の場合は受験や就職、結婚など、様々なストレスがないか、原因となるストレスを探します。人によっては、自律神経失調症となった原因のストレスよりも、自律神経失調症自体が現在の最大のストレスとなっている場合もあります。ストレスの解消法として、散歩や体操などの運動やアロマセラピー、音楽など、その人にとって実現可能なものを一緒に探すこともあります。生活習慣の見直しや環境調整を行いながら、抗不安薬や漢方薬などの薬物治療も行います。同時に、自律訓練法、漸進的筋弛緩法や呼吸法などのリラクセーション法の習得や認知行動療法、その他の心理療法を併用することで、自分自身がストレスに対してより強くなっていただきながら、不適切な考え方や行動などを見直していけるようサポートしていきます。薬物治療につきましては、症状が改善し次第、薬を少しずつ減らしていき、根治治療を目指すこととなります。

自律神経失調症は生命に関わるような病気ではありませんが、生活の質を大きく損なう可能性があります。治らないと諦めている人もいらっしゃいます。ご家族や周りの方々で自律神経失調症かもしれないと思われる場合、心療内科などの受診を勧めて頂ければと思います。

鹿児島労基 令和2年3月号掲載

発達障害(自閉スペクトラム症:ASD)を支援する人々のメンタルヘルス
~カサンドラ症候群に視点をあてて~

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員
久留 一郎  
(鹿児島大学 名誉教授)
(担当分野:カウンセリング)

  近年、職場同僚(上司、部下など)、家族パートナーとの関係(夫婦、親子)など、発達障害の一つである「自閉スペクトラム症:ASD」を取り巻く状況の中で、重篤なメンタルヘルス不調の事例(カサンドラ症候群)が報告されている。
語源となっている「カサンドラ」は、ギリシア神話に登場するトロイの王女の名前である。未来予知の能力がありながらその「予言(言動)」を誰にも信じてもらえないという境遇を持つことから、「身近な人間関係での不条理な状況に置かれ、周囲から理解をしてもらえない」という困惑の状態を指す言葉として、心理療法家シャピラによって1980年代に名付けられた。
(ソクラテスの妻は本当に「悪妻」だったか?という疑問が取り上げられ、彼女こそカサンドラ症候群だったのではないかといわれている。哲学者ソクラテスは日常的には偏奇的な行動が多く、家庭を顧みることなく哲学三昧にふけっていたことから発達障害(ASD)だったといわれている)
「発達障害者(ASD)のいる家族やそのパートナーとの情緒的交流の乏しさから、その関係性の悪化、またその事実をパートナーも周囲も理解せず、当人が苦しみを抱えたまま孤立した不条理な状態に置かれること」が、大きな問題となる。
カサンドラ症候群が生じる具体的な原因としては、発達障害のある人と親密な関係にある人に多く見られるということである。

発達障害(自閉スペクトラム症:ASD)の特徴として、

  1. 相互的なコミュニケーションや他人と協調して一緒に行動することが苦手。
  2. 相手の気持ちに共感し、言外の意味(メタファー)を想像するのが苦手。
  3. 同じ行動パターンや狭い興味にとらわれやすく、視点の切り替えが苦手。
  4. 感覚の過敏さや逆に鈍感さがあるといったこと等々が挙げられる。

学業や職業においては有利に働く場合もある。高度な専門知識を必要とする領域では、多くの人が活躍している事例もある。
発達障害者(ASD)との職務上の関係に困り、上司に相談すると、「もっとしっかり指導しなさい」と言われ、繰り返し努力するものの、逆の結果になり、支援する側のメンタルヘルス不調の状態が生じてしまうことが多い。

発達障害者(ASD)への支援だけでなく、彼らをとりまく支援者(職場の上司、同僚、家族における夫婦等)への支援が、彼ら(ASD)への意味ある支援につながるものと思われる。「一人で抱え込まない」ための工夫が必要である。

カサンドラ症候群に苦悩する上司、同僚、パートナー(家族)に対して、発達支援のありかたについて配慮すべきこととして以下に提示してみる。

  1. 「同時処理」が苦手なので、一度に複数の情報を提示しないこと:視覚情報(文字カードの提示)、聴覚情報(言葉による指示)など分けて一つずつ提示する。
  2. 「知覚過敏性」に対する配慮:刺激のコントラストが強すぎると混乱しがちである。(大声で怒鳴る、急な予定の変更)
  3. 「行動の見通しができるよう構造化」された情報の提示:行動の予測が可能な時系列的提示(時間経過ごとに仕事の内容を具体的に提示、プログラム化した仕事内容の提示)等々・・。

メンタルヘルス担当者がカサンドラ症候群に陥らないよう「きづき」をもつことが大切に思われる。

<引用文献>
岡田尊司(2018)
カサンドラ症候群:身近な人がアスペルガーだったら 角川新書
久留一郎・餅原尚子(2019)
臨床心理学:「生きる意味」の確立と心理支援~発達障害とメンタルへルス~ 八千代出版

鹿児島労基 令和2年1月号掲載