お知らせ

27年 バックナンバー

労働災害防止“自分の安全は自分で守るのが基本”

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員 黒沢 郁夫
(担当分野:労働衛生工学)

  朝の出勤時の挨拶で、お互いに眼を見て、聞こえる声で「おはよう」「おはようございます」と交わすのが本来の姿です。相手の眼をそらして、小さな声で挨拶が返ってくると、体調は大丈夫かと相手に心配を与えることになります。又 、出勤時にどちらが先に声をかけるか決まりはありません。先輩と後輩、職場の上司と部下の関係 で先に気づいた方が挨拶する、先手挨拶を心がけることが仲間意識を高めることにつながると思います。災害防止に仲間意識は欠かせません。

 さて自分の安全は自分で守るのが基本についてです。 例えば、書類を見るのに夢中になって階段を降りると、足元を見ていないので踏み外して負傷することが想定されます。その時、誰かが見ていて、「書類を見ながら階段を下りてはいけない」と注意してくれれば防ぐことができますが、そう都合良く行きません。やはり自分自身が安全意識を持って行動することが不可欠です。まずは、自分の安全は自分で守らなければならません。そのために次のことに留意することが大切です。
  一、体調管理に努める。体調管理は自分自身との闘いでもあります。特に健康診断の結果、異常所見の者は医師等の意見を三カ月以内に聞かなければならないと法で規定されています。結果に対して速やかな対応が求められます。二、自分の安全を他人に頼らない。階段を下りる時の災害リスクの例で、他の者が一部始終を見ていて、不安全行動を注意することなどできません。指導にも限度があります。三、現場には、様々な危険があることを忘れない。作業行動の中には危険要因が存在します。漫然と仕事をするのではなく、各自が安全意識を持って危険に気づく努力を積み重ねる必要があります。四、安全作業手順を遵守する。単なる作業手順ではなくて安全ポイントを明確にした安全作業手順を確実に守ることです。過去に負傷したことやヒヤリハットしたことなどの注意点を示したものが安全ポイントですので、守るのは必須です。五、災害を想像する習慣を身につける。仮に災害をイメージトレーニングすると、現実的に捉えることができるので、危険を回避しようとする安全意識が一層高まることが期待されます。

 次に労働災害防止に大切なのは組織的な安全管理活動です。安全管理活動は全員参加で組織的に取り組むもので一人でも無関心は禁物です。例えば、経験年数が多い者が、これまでに負傷したことはないという理由で、安全活動に消極的な態度を取るものを許した場合、同じ考えの者が一人、二人と次々に現れることになり、結果的に安全管理活動が沈滞してしまいます。安全管理活動には勢いが欠かせないもので、このような不心得者は許してはなりません。全員参加がベースです。
 更に組織的な安全管理活動には明確な目標と継続的な実行力が必要です。ここで災害発生に対する厳しさが不足している例を上げます。ご存知の方もいると思います。ある工場で、死亡事故が発生しました。当日工場の責任者が弔問に訪れた際に、死亡された方の妻より「工場では何人の方が働いておられますか」と聞いたので,責任者は「一万人です」と応えると、二人の幼子を抱える妻は「工場にとっては主人の死によって一万人の中の一人を失っただけかもしれません、私たちは人生のすべてを失ってしまいました」と言われました。責任者は、この言葉に大変な衝撃を覚えたと言っています。これまで産業活動には、ある程度の労働災害はやむを得ない。ただ、度数率や強度率をできるだけ低くするのが自分の担当者としての責任であるという立場で安全衛生対策全般に取り組んできたが、この妻の言葉を聞いて,1人ひとりかけがえのない人なのだ、労働災害は決してあってはならない、ゼロ災でなければならないと心底悟ったと言っています。
 この程度の災害は起こり得るという思いは通用しません。全国の安全スローガンに再三登場する「災害ゼロから危険ゼロ」は、災害の発生原因となる危険ゼロへの取り組みに重点を置いたもので災害の未然防止に不可欠です。災害発生には直接原因として不安全行動と不安全状態が挙げられますが、その背景には根本原因(4M)として管理的要因・作業的要因・設備的要因・人的要因が指摘されています。これらの取り組みが危険ゼロへの具体的な取り組みとなります。

 最後に安全管理活動は相互信頼が基礎です。車の運転と同じで、 運転免許を持っているので、例外を除いてお互いに安心して走行できます。組織的な安全管理活動の展開の中には各作業者に対して安全作業への信頼があります。お互いが両輪となって取り組むのが災害防止の近道です。


鹿児島労基 平成27年11月号 掲載

平成27年「過労死等の防止の為の対策に関する大綱」について

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員 前田 雅人
(担当分野:産業医学)

  平成27年7月24日に厚生労働省から「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が発表された。様々な要因が潜んでいるであろう「過労死」は、残された者の悲しみのみならず、その社会的影響は大きなものがある。この言葉は国際的にも「karoshi」として知られているようであり、「過労死等防止対策推進法」が平成26年11月に施行されたとはいえ、「過労死」対策は急がれるところである。今回は発表された大綱の内容からいくつかポイントを選んで解説する。
  まず過労死等の定義は「業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡」、「業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」、「死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害」の3つに初めて規定された。
  過労死等に影響を及ぼす労働時間の現状をみると、我が国の年平均労働時間は欧州諸国と比較して長く、時間外労働者の割合が高く、特に週49時間以上働いている労働者が多いようである。週60時間以上の労働時間の者については全体で1割弱となっているが、働き盛りの30代男性が17%を占めており、憂慮すべき問題である(平成26年)。その一方で、年次有給休暇の取得率は近年5割を下回っており、正社員の約16%が1日も年次休暇を取得していないと報告されている。この労働時間対策として、国は平成32年までに週労働時間60時間以上の労働者の割合を5%以下に、年次有給休暇取得率を70%以上にすることを目指している。

  メンタルヘルスについては、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合が平成25年度は52.3%と以前よりは低下しているが、まだ半数を超えている。その内容は「仕事の質・量」(65.3%)、「仕事の失敗、責任の発生等」(36.6%)、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」(33.7%)と報告されている。メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は平成25年60.7%と前年より13.5%も増加しているが、都道府県労働局等に寄せられる企業と労働者の紛争に関する相談のうち「いじめ、嫌がらせ」に関するものが近年増え、なんと平成24年度は「解雇」の相談件数を上回り、最多となっているとのことである。今後の対策として、国は平成29年までにメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合80%以上を目指しており、また平成27年12月から「ストレスチェック」が実施され、メンタルヘルス対策の充実が期待される。

  一方、就業者の脳血管疾患、心疾患(高血圧性を除く)、大動脈瘤及び解離による死亡数は減少傾向ではあるが、平成22年度は3万人余りであり、60歳以上が全体の7割を占め、高齢者に多くみられる。近年は業務における過重な負荷が原因として考えられるようになっており、対策として長時間の時間外労働の把握が重要と思われる。
  自殺数については、平成10年以降14年間連続して3万人を超えていたが、平成22年以降減少が続き、平成26年は2万5千人余りと報告されている。勤務問題が原因・動機の一つとして推定される自殺者数は、平成26年は2227人であり、詳細にみると「仕事疲れ」が3割を占め、次いで「職場の人間関係」、「仕事の失敗」、「職場環境の変化」の順とのことである。

  大綱の中で、今後は調査研究等を含め、啓発活動、相談体制の整備、民間団体の活動への支援等を「過労死等の防止対策」として考えていることが記載されており、各事業場も積極的に取り組み、過労死等ゼロを目指していただきたい。


鹿児島労基 平成27年9月号 掲載

「空気の読めない(KY)人間」のメンタルヘルス

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員 久留 一郎
(担当分野:メンタルヘルス)

  最近「あの人、KYだよね」ということばをよく耳にする。「K、Y」とは、「空気(K)の読めない(Y)人間」のことをさすらしい。職場の同僚や友人関係の中で、その「場」の雰囲気や醸し出されている空気を察することができない人間のことを表しているようである。そのため、「場にそぐわない言動」をし、周りの人間は迷惑を被ることになるという。
  このような人間の幼いころのことを両親にたずねると多くの場合、「人見知りがなかった」とか、「親の後追いをしなかった」とか、「抱っこされることを好まない」など、親から見れば「手のかからない、育てやすい子供」だったということが共通してきかれる。
  幼稚園では「一人遊びを好み」、「仲間遊びやごっこ遊びができない」などの特徴が見られる。小学校に上がると学級仲間との「集団遊びや」「運動会などの集団行動」が苦手という現象が親や担任教師から聞かれる。中学校、高校と進むに従い対人関係の問題が深刻になってくる生徒もいるが、中には知的に高く、特異な教科での成績は良好な生徒も出てくる。学業中心の時代は特別な攻撃行動や反社会的な行動がない限り、無事卒業し、大学に入学するケースも増えている。

  そして、専門領域では高度な能力を発揮し、就労する青年も増えている。ところが、職場に入ってから対人関係などでの悩みが増え、職務上のトラブルが増えるという「KY」人間のケースの相談が増えており、今、この人たちのメンタルヘルス・サポートが問われている。就学中、「気になる」存在だったが、今までに専門的な診断を受けていない「重ね着症候群(学校時代、発達障害を疑われていないという一群)」といわれる人間の中には発達障害(自閉症スペクトラム)といわれる人たちが含まれており、就労してから彼らの対人関係を中心とした問題が浮き彫りになり、相談にたずねてくるケースが見られるようになってきた。
  筆者の考えでは、彼らは「隠れた被害者」になる危険性をはらんでいるように思われる。「空気」が読めないということは、他人の気持ちを読み(盗み)、詐欺や騙しなどの犯罪行為をするのは難しいことになる。ところが、KY人間の中には周りの空気が読めないため、阻害され、就労のいろいろな場面においてハラスメントを被る「隠れた被害者」になる危険性があると思われる。「インクルージョン(多様性への対応と共生)」という人間観が叫ばれる中、彼らと接する側の我々が、彼らに寄り添えるようなメンタルヘルスのあり方を確立する必要があると感じている。(少し変わっているが?)この純粋でかたくなな(専門性の高い)人間と共同していくようなシステムを構築する時代になっているのでは、と思うのだが・・・。


鹿児島労基 平成27年7月号 掲載

受動喫煙防止対策に係る技術的留意事項に関する専門家検討会報告書(案)のお知らせ

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員 林 和幸
(担当分野:労働衛生工学)

  受動喫煙防止対策に係る技術的留意事項に関する専門検討会が行われ、内容の公表が厚生労働省ホームページ新着情報欄に議事録及び報告書(案)としてなされております。  
  喫煙対策については、長年にわたっての団体はじめ企業の皆様の懸案事項であろうと思われますとともに、今後も引き続き重要な検討課題のテーマとして残存し続けるものとみられます。平成27年6月1日から受動喫煙防止措置努力義務が施行となるため、当該専門家検討会にてまとめられた報告書(案)も参考に、当受動喫煙防止措置をそれぞれできる範囲で努力義務としてご実施ください。以下、当該専門家検討会で討議された項目の一部を挙げてみましたので、ホームページの議事録及び報告書(案)を参考の上、措置を取る一助にしていただければ幸いです。  
  当該議事録及び報告書(案)では、「屋外喫煙所(屋内全面禁煙)」「喫煙室(空間分煙)」及び「換気措置」に区分されています。

1 表示・掲示

それぞれ、共通事項として以下の項目について表示することが効果的です。

  • 喫煙可能区域である旨。
  • 喫煙可能人数。
  • 適切な使用方法の表示と掲示。
2 屋外喫煙所(屋内全面禁煙)の設置

(1)屋外喫煙所については、屋根のみの構造や、屋根と一部の囲いのみの構造等の「開放系」と屋根と壁で完全に囲われ、屋外排気装置等で喫煙所内の「閉鎖系」に大別されます。

  • 開放系(煙の減衰大→たばこ煙漏れ大)。
  • 閉鎖系(たばこ漏れ小→設置費用、煙濃度増大化、建築基準法等法令)。

今後さらなる知見の集積が望まれます。
(2)「屋外喫煙所(屋内全面禁煙):開放系、閉鎖系」の技術的留意項目

  • 建物出入口煙侵入有無確認(建物出入口内1メートル確認位置)。
  • 窓排気口からの建物入り口、休憩所その他等への煙侵入考慮。
  • 傾斜天井屋根利用(新たな事例)。
  • その他。
3 喫煙室(空間分煙)の設置

(1)喫煙室内のたばこ煙を効果的に屋外へ排出するため、また出入り口から非喫煙区域にたばこ煙が流出するための効果的な構造です。

  • 非喫煙区域に対して開口面(隙間)がない。専ら喫煙のための室。
  • たばこ煙を屋外に排出できる屋外排気装置の設置の必要。
  • 煙漏えい防止のための、出入り口から喫煙室内へのスムーズな気流を要する。

(2)「喫煙室(空間分煙)」の技術的留意項目

  • 喫煙室:長方形化と排気装置位置の仕方。
  • 喫煙室での排気設備と空気清浄装置の併用利用可(対煙粉じん対策であり空気清浄装置のみでは危険)。
4 喫煙可能区域設定と換気装置

  顧客が喫煙できることをサービスに含めている宿泊業、飲食店等で「屋外喫煙所(屋内全面禁煙)、喫煙室の設置」が困難な場合は、喫煙可能区域を設定した上で、当該区域において適切な換気措置を行うことが想定されます。こうした措置を講じた区域においては、労働者は、少なからず、受動喫煙することとなるため、当該区域における業務では、ローテーション制を取る等の配慮をするなどの受動喫煙の低減策を組み合わせることも検討すべきです。

5 屋外排気装置の特徴:換気扇・天井扇・ラインファン・遠心ファン等

(1) 換気扇
ⅰ.設置が容易で安価であるのが利点。
ⅱ.得られる静圧が低いため、屋外の風が強いと排気量が低下する。
ⅲ.ウェザーカバーの設置が必要。
ⅳ.羽根径が35センチ以上になると、騒音が大きくなり喫煙室には不向き。
(2) 天井扇
ⅰ.外気に接する壁がない場合も設置可能であるのが利点。
ⅱ.ダクトによる圧力損失で排気量が低下するため静圧・風量曲線図により排気風量の計算を要す。
(3) ラインファン・遠心ファン
ⅰ.高静圧の製品であれば圧力損失や外気の影響を受けにくいのが利点。
ⅱ.換気扇等と比較すると価格が高い。

6 空気清浄装置の併用例

(1) 空気清浄装置の排気方向を屋外排気装置の方向に集中させた例。
(2) 天井埋め込み型の空気清浄装置の活用した例。
(3) 喫煙室の出入り口における気流及び一酸化炭素を満たす廃棄量を確保した上で、浮遊粉じん濃度を低減するため、空気清浄装置を活用し、冷房用のエネルギー損失を抑えた例がある。

7 空気調和設備(エアコン)

(1) 気流0.2m/sを遮蔽版等利用し厳格に維持できるならば、冷暖房使用可。

   当該議事録及び報告書(案)には、現場でしか思いつかない事例が多数列挙されており、多くの技術的新事項の取得に役立ちます。当該議事録及び報告書(案)は厚生労働省ホームページをご参照ください。膨大なボリュームではありますが、読破する価値があります。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou.html?tid=230424

 


鹿児島労基 平成27年5月号 掲載

職場巡視のチェックポイント

鹿児島産業保健総合支援センター 所長 草野 健
(担当分野:産業医学)

 
  産業保健活動として行う業務は多岐にわたります。働く人が働くことによって健康を損なうことがないようにするだけでなく、安心して働けて効率も上がり事業場の経営にも資する、さらには働くことによってより健康になる、それが目指すべき産業保健活動です。 3管理・5管理を行う上でも、またRA(リスクアセスメント)等を遂行するにも、それらの基礎となる活動は職場巡視です。ところが、産業保健の現場ではこの職場巡視が苦手(?)な方が少なからずいるようです。当センターの研修に対する要望でも常に多いテーマは、職場巡視の実地研修です。それは産業医だけでなく他の産業保健スタッフからの要望も同様です。「いつ回るのか」「誰と回るのか」「何をどうみるのか」「時間をどれぐらいかけるのか」「どんな測定器具を持参するのか」等、巡視方法への疑問が多いようです。

  職場巡視の目的はWHO・ILO合同委員会で「作業条件に基づく疾病を防止すること、健康に不利な条件から保護すること、作業者を特性に応じた作業環境に配置すること」と定義されています。我が国の労働安全衛生法では「有害要因の発見とその措置」を巡視の主たる目的としていますが、これは巡視の最低限のものと言えます。事業場内の衛生管理者が常時行う点検巡視の主な目的は、有害要因の有無をチェックし、有害要因があればその対策を立てることにあります。その際に重要になるのは、現に作業が行われている状態で観察することですが、有害要因を見落とさないために、また作業遂行を妨害しないように短時間で巡視を終えるためにも予めチェックリストを作成しておくことです。チェックリストは部署毎に必要になります。  
  チェックリスト作成に当たっては、作業環境(照明、騒音、気温、湿度、粉塵など)だけでなく機械・器具や設備の配置状況とその使用状況や作業者の姿勢・動線なども重要です。今大きな課題となっているメンタル障害の予防のためには、休憩・休養設備と各作業者の心理状況等をその服装や態度、人間関係から観察することも肝要です。そのためには本人や上長からの随時の聞き取りも必要となります。  
  以上は、事業場内の衛生管理者が常時行うことですが、産業医はそれらの結果をベースとして「健康障害予防」「作業能阻害予防」の観点に加え「各種の対策の効果判定」と時宜に応じた「防疫上の視点」まで持って行うことになります。その際、何がどのように健康に影響を与えるかを医学上の観点から観察しますが、業務の詳細な内容を事前に聞き取っておくことは不可欠となります。
  職場巡視に測定器具などは不要です。必要なのは作業場に応じたチェックリストです。チェックリスト作成のポイントは、よく言われる3Sや5S(整理・整頓・清掃と清潔・躾)に加えて、照明・騒音・空気環境(感覚的に)等の作業環境があらゆる職場の共通のチェック項目となります。機械・器具等は各々のチェック項目が必要です。

  作業場の規模によっては一度で全てを回ることはできませんが、その場合は分割して行えば良いことです。衛生管理者の巡視を日常(週1回でも)行い、その結果を基にして月1回産業医と一緒に回ることが望まれます。先ずは、冒頭の目的を意識して作業場を回る、それが重要です。
  法令上は月1回巡視することになっています。しかし、事業場も種々あり、週単位で作業環境の変わる現場もあれば、一方で小さなオフィスなどでは1年以上に亘り作業環境に変化のない事業場もあります。短期間で作業環境が変化する事業場の場合は、その都度巡視するのが理想ですが、実際には専属産業医であっても困難です。その際に有効なのが衛生管理者等による点検巡視の報告です。日常から衛生管理者等との連携がとれていれば、作業条件が変化する度に十分な作業環境変化の把握と対策樹立が容易です。
  また、殆ど変化しないオフィスなどでは、巡視として隅々まで廻らずとも数回目以降は衛生委員会開催時に事務室等の作業現場を覗くだけで十分な把握が出来ます。 職場巡視は、繰り返し行うことで、「いつ回るのか」「誰と回るのか」「何をどうみるのか」「時間をどれぐらいかけるのか」の答えが自ずと出てきます。これらの問いへの答えは事業場によって異なりますが、また時と共に変化します。百点満点の答は存在しませんが、百点を目指す姿勢だけは持つ必要があります。


鹿児島労基 平成27年3月号 掲載

タバコのお話

鹿児島産業保健総合支援センター産業保健相談員  小田原 努
(担当分野:産業医学)

 
  今回はタバコを吸う方には耳の痛いお話しになりそうですが、喫煙の害について再度整理してみたいと思います。今年6月に労働安全衛生法が改正され、受動喫煙防止の対策が事業所の努力義務になりました。具体的には、受動喫煙を防止するため、事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずることを事業者の努力義務とし、受動喫煙防止対策に取り組む事業者に対し、国は、受動喫煙の防止のための設備の設置の促進等に係る必要な援助に努めるというものです。  

  タバコの害は広く知られ、またタバコそのものの値段がかなり上昇してきていることからも、喫煙者の数はここ20年で、男性は55%から34%へと減少してきています。しかし女性の喫煙者は9%前後で横ばいです。鹿児島県は実はまだまだ男性の喫煙者の割合は高く、ヘルスサポートセンター鹿児島のデータでは、20代から40代までは喫煙者が50%を超えているのが現状です。たばこの煙に含まれる有害物資は全部で200種類以上あるとされ、明らかにがんを起こすというガン原物資も15種類程同定されています。タバコの煙は本人が吸い込んでいる主流煙と燃えているタバコから立ち上る副流煙があります。副流煙が主流煙より有害物質が多いとされ、実際に夫も妻もタバコを吸わない妻の肺がんでの死亡率を1とすると、妻はタバコを吸わないのに、夫がタバコを20本以上吸う妻の肺がん死亡率は1.9倍であるという調査結果もあります。副流煙を吸い込んで肺がんになっている可能性が高いと思われます。
  また最近、お酒を飲んで赤くなる方は、咽喉や食道のがんになる可能性が高いという報告が多くなされています。お酒を飲むと体の中でアセトアルデヒドという物質に変換されますが、このアセトアルデヒドが二日酔いや顔が赤くなる原因物質とされています。日本人はこのアセトアルデヒドを再度分解して体の外に出す酵素が少ない人が多いとされ、お酒の飲めない人や飲んでもすぐ赤くなる人が多いとされています。このアセトアルデヒドががんを起こす原因とされており、お酒を飲んで赤くなる人や、昔コップ1杯のお酒で赤くなっていたが、今は鍛えられて飲めるようになった方は食道がんなどになる可能性が高いとされています。この方々が更にタバコを吸うとお酒もたばこも吸わない方の30倍ぐらい食道がんになりやすいとされており、注意が必要です。  

  タバコは一箱470円とすると、1か月で13,800円、1年で167,900円、10年で1,679,000円を煙としていることとなります。健康の面、経済的な面からもその1本吸うのをやめてみませんか?


鹿児島労基 平成27年1月号 掲載